経団連くりっぷ No.43 (1996年11月14日)

国際文化交流に関する懇談会(座長 日枝国際協力委員長代行)/10月14日

国際文化交流の現状について大塚外務省文化交流部長より聞く


国際協力委員会では、「経済と文化は国際交流における車の両輪」との認識のもと、ASEAN諸国を対象に文化交流プロジェクトを実施している。今後どのような分野の活動を重点的に展開していくかを検討するため、外務省の大塚清一郎文化交流部長より、わが国の国際文化交流活動の現状について聞いた。
以下は、大塚部長の説明要旨である。


日枝委員長代行

  1. 国際文化交流の必要性・重要性
  2. 一般に国と国との関係(外交)においては、政治対話、経済交流、文化交流の3つのバランスが重要である。世界的に見ると、英国のそれが理想的な形となっている。日本の場合は、経済面が突出し、文化面がこれを後追いする形になっている。
    1988年、当時の竹下首相がロンドンで政策演説を行なった。その中で、日本外交の3本柱として、
    1. 平和のための外交努力、
    2. 国際文化交流の強化、
    3. ODAの拡充・強化
    をあげ、国際協力構想を提示した。
    それでは、なぜ国際文化交流活動に力をいれなければならないのか。3つの理由がある。第1に、冷戦が終わって平和が訪れると期待したが、イデオロギーの対立から民族・宗教などの対立が深刻化している。お互いの文化を理解したからといって、紛争がなくなるほど現実は生易しくないが、現実の厳しさを理解したうえで国際文化交流を推進するのは重要である。第2に、わが国の場合とくに経済と文化のバランスをとるために、文化交流に力をいれなければならない。第3に、日本社会の国際化のためにも、文化交流の果たす役割は重要である。

  3. わが国の文化交流活動の課題
  4. 政府は国際交流基金を中心に、国際文化交流活動を推進している。しかし、英国のブリティッシュ・カウンシル、ドイツのゲーテ・インスティチュートなどと比べると、インフラ、予算、人的手当てなどの面で、必ずしも十分とはいえない。
    現在、わが国の国際文化交流活動予算の伸びは年7〜8%である。各国の国際文化交流予算が頭打ち傾向にある中、追い風が吹いているといえよう。こうした中、政府としては効果的な事業を展開していくことが求められている。

  5. 今後の具体的方針
  6. 国際文化交流を展開していく上で、今後は以下の3点を指針とすべきであると考える。第1は、発信型文化交流の実施である。これは、多角的・総合的に日本文化を発信するために大型プロジェクトを展開するもので、来年5月にオープンするパリ日本文化会館での活動などが該当する。第2は、国際文化協力の拡充である。これは日本文化の紹介とは異なる国際貢献で、文化財の保存などが当てはまる。わが国は、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金などの活動を通じてこれに協力している。第3は、知的交流の促進で、代表例は国際交流基金の知的交流事業である。

  7. 留学生問題
  8. 人的交流の面では、留学生問題に本腰を入れて、官民合同で取り組む必要がある。最近は、不況や円高などにより、わが国への私費留学生の数が伸び悩んでいる。生活インフラの拡充、奨学金の拡大、学位取得の容易化など、留学生としてのわが国の魅力を高めることが不可欠である。
    政府は1983年より、21世紀までに10万人の留学生を受け入れる計画を推進しているが、留学生の大半を占めるアジア人留学生の多くが、嫌日家になって帰国するケースが多い。こうしたことから、特にアジア諸国との相互理解と友好関係を促進するためにも、在日留学生が抱える問題を本気で対処しなければならない。


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