経団連くりっぷ No.43 (1996年11月14日)

産業技術委員会(委員長 山口開生氏)/10月28日

落合科学技術庁科学技術政策局長と懇談

−科学技術基本計画と来年度の主要な施策(概算要求)について


経団連では、ここ数年わが国の科学技術基盤の脆弱化を懸念して提言を重ね、4月に提言「科学技術基本計画の策定に望む」を関係方面に建議した。科学技術基本計画は、7月に閣議決定され、今般、同基本計画初年度に当たる来年度の概算要求が出そろった。そこで、産業技術委員会では、科学技術庁の落合科学技術政策局長を招き、基本計画の内容ならびに平成9年度の主要施策などについて説明を聞くとともに、意見交換した。

  1. 落合科学技術政策局長説明要旨
    1. 日本の科学技術の現状
      1. 日本の政府・民間合わせた研究費総額(対GDP比)は欧米先進諸国と比較して遜色ないが、研究費の政府負担割合は、21.5%と先進諸国中最低である。
      2. 日本の研究開発費はこれまで右肩上がりで増加し続けてきたが、92年度から3年連続して民間研究開発投資が減少したため、国全体でも93年度から2年連続減少している。
      3. 研究水準の国際比較をみると、日本は、基礎研究においてライフサイエンス、物質・材料、情報・電子、海洋・地球科学分野において欧米との格差は拡がっている。一方、開発・応用研究では、日本は頑張って現状を維持している。
      4. 日本の大学・国立試験研究機関では、施設・設備の老朽化・陳腐化が進んでいる。研究支援者も国立大学では4人に1人の割合しかおらず、教授が事務に追われている。
      5. 民間企業では、アイディアの供給・発見は海外の研究開発拠点の方が優位であるが、新製品の開発は国内の方が優位であると評価している。
      6. 小中高生の科学技術に関する関心は、学年が上がるごとに低下している。

    2. 科学技術基本計画と来年度の主要な施策(概算要求)
      1. 科学技術基本計画の概要
        基本計画は2章から成り、第1章では研究開発の推進に関する総合的指針を定め、第2章では第1章の方針に沿った今後5年間(1996〜2000年度)に講ずる具体的な措置を示している。ポイントは、新たな研究開発推進システム構築のための制度改革等の推進と、政府の研究開発投資の拡充という2点である。
      2. 任期付任用制度
        8月の人事院勧告では、研究活動の活性化のため国立試験研究機関へ任期付任用制度を導入することが必要であるとされた。今年中にも人事院から意見の申出が行なわれ、次の国会で必要な法改正がなされる予定である。
      3. ポスドク1万人支援計画
        博士課程修了者(ポストドクター)等の若手研究者を支援するため、来年度の概算要求で科学技術庁、文部省、通産省等関係省庁が制度の拡充(約 8,000人規模)を求めている。
      4. 研究支援者の確保
        研究支援者の外部人材の活用については、労働者派遣事業など民間事業者を活用できるよう、現在、政府内で調整を行なっており、今年中には結論が得られる予定である。
      5. 兼業許可の円滑化
        国の研究者が勤務時間外に民間で研究等を行なうことを原則許可する旨の通知を科学技術庁から各省庁に出しており、検討が進められている。
      6. 研究成果の活用
        国研の研究者個人による研究成果の利用に道を開くため、各省庁は必要に応じ、特許権等が研究者個人へ帰属できるよう、今年度から職務発明規定を改正する予定である。
      7. 国際交流の促進
        科学技術庁、文部省等では、各種フェローシップ制度の拡充を図り、来年度概算要求で外国人研究者の受け入れ拡大を要望している。
      8. 厳正な評価
        科学技術会議政策委員会に評価指針策定小委員会を設置し、国の研究開発全般に共通する評価の実施方法のあり方についての大綱的指針を今年度中に策定する予定である。
      9. 研究開発基盤の整備
        各省庁では、計画期間内に国立大学、国立試験研究機関等の施設・設備を改善するとともに、研究開発機関間の情報通信基盤および計量標準等の知的基盤の整備を図る予定である。
      10. 政府の研究開発投資の拡充
        96年度から2000年度までの科学技術関係経費の総額を約17兆円とすることが必要である。来年度の概算要求では3兆 956億円と対前年度比10.1%増の高い伸びとなっている。
      11. 今後の課題
        科学技術庁では、具体的な措置の実施状況をチェックするとともに、評価の大綱的指針の策定に取り組んでいく。また、どういう分野の研究開発に力を入れるかについて、1〜2年かけて検討していく予定である。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    欧米諸国と比較する場合、研究の質をどのように考えるのか。日本では海外でやっていない研究が少ない。
    落合局長:
    科学技術に関する国際的な比較は、一般的な指標しかない。質の差をとらえるのは難しい。

    経団連側:
    基本計画は、まだキャッチアップ型の計画にとどまっている。フロントランナーにふさわしい研究開発推進システムの構築を研究する必要がある。
    落合局長:
    わが国がフロントランナーになる前に、まず足腰を強くするというのが今回の基本計画の狙いである。フロントランナーとして、どういう分野の研究開発に力を入れていくべきか勉強を始めている。

    経団連側:
    重点分野については、産業界としても検討していきたい。
    落合局長:
    重点分野については、現在、私的な勉強会の形で検討を進めており、ある程度イメージができた段階で、科学技術会議に諮問し、関係方面の意見を伺いたい。

    経団連側:
    科学技術を振興していく上で大学の活性化が不可欠である。また、大学によっては外部評価を厳格に行なっているところもあり、あまり国が画一的に行なうのはどうか。
    落合局長:
    大学については文部省の大学審議会で検討されており、方向性としては基本計画の趣旨と同一歩調をとっている。

    経団連側:
    評価については、その研究開発がどういう希望をもたらしてくれるのかというマクロの視点が必要である。

    経団連側:
    学生の理科離れに対しては、産業界も魅力ある仕事を提供していく必要がある。


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