経団連くりっぷ No.44 (1996年11月28日)

日本カナダ経済委員会(委員長 江尻宏一郎氏)/11月14日

経団連訪カナダミッションが見た新しいカナダ


日本カナダ経済委員会では、9月18日〜27日に派遣された「経団連訪カナダミッション(Keidanren Business Partnerships Mission To Canada)」の報告会を開催し、政策対話ミッションと情報通信および加工食品の分野別ミッションの代表者よりカナダ政治・経済状況と二国間の投資・貿易の拡大、多様化の可能性について説明を聞くとともに懇談した。
以下は各ミッションの報告概要である。

  1. カナダの政治・経済状況と今後の日加関係について
    (経団連訪カナダミッション団長:江尻日本カナダ経済委員会長)
    1. カナダの力強い変革
    2. 今次のミッションを終えて強く感じたことは、カナダの力強い変革である。
      第1に、着実な財政赤字の削減があげられる。1993年誕生のクレティエン政権は、財政赤字削減を政策の柱の一つに掲げ、歳出の大幅カットを実施した。その結果、93年に対GDP比5.9%だった財政赤字は年々減少し、95年に4.2%になった。2000年には均衡財政が達成される見通しである。首相のリーダーシップの下、連邦・州政府が国民と痛みを分かち合いながら増税なき財政赤字削減に取り組むカナダの姿勢は、日本にとって学ぶべき点が多い。
      第2に、活力溢れる国内経済があげられる。80年代後半から90年代初頭にかけてカナダ経済は高インフレ下にあり投機的投資が目立ったが、政府、カナダ中央銀行のインフレ抑制策が功を奏し、92年から95年まで消費者物価指数は0〜2%台を維持している。その結果、民間企業の大規模なリストラと記録的な設備投資、技術革新が進み、生産性が大幅に向上し、国際競争力が大幅に改善されている。
      第3に国際的に開かれた市場があげられる。米加自由貿易協定(FTA:89年1月発効)および北米自由貿易協定(NAFTA:94年1月発効)は、カナダの産業競争力を高め、産業の高度化をもたらしている。

    3. 今後の日加関係
    4. 日加貿易は、カナダから天然資源や農産品を輸入、日本から工業製品や資本財を輸出する相互補完関係の上に発展してきたが、カナダの産業の高度化に伴い、高付加価値製品の輸入が徐々にその割合を伸ばしている。今後は、情報通信や加工食品などの高付加価値分野における日加ビジネスの新たな展開が予想される。
      また、カナダは97年11月にAPECを主催することから、97年を「アジアの年(Year of Asia)」と位置づけており、日加両国が太平洋をはさんだ良きパートナーとして連携を深めていくことが期待される。

  2. カナダの情報通信産業
    (団長:伊原三菱電気副社長、副団長:島田三井物産常務取締役)
    1. 優位性
    2. 今次のミッションでは、カナダの連邦・州政府が戦略産業として情報通信産業を位置づけ、その育成を図っていることや、いわゆるソフトウェア開発に優れたベンチャー企業が数多く存在することを再認識することができた。
      カナダの情報通信産業の利点としては、第1に、NAFTAの締結により、北米全体の市場を念頭に入れたオペレーションが可能となったこと、第2に、規制緩和により、産業の競争力が高まったこと、第3に連邦・州政府がハイテク・パークの整備、産官学の共同研究の実施、研究開発に対する税制上のインセンティブの供与など情報通信産業の振興に努めていること、第4に初等教育過程からのパソコンの導入、情報専門課程を有する大学の存在など、情報分野に通じた労働力が容易に得られ、しかも米国に比べ、労働コストが安価なことなどが挙げられる。

    3. 訪問先企業の印象
    4. 今回説明を受けた企業は、ノーテル社など世界的に著名な大企業も含まれたが、多くは、設立10年前後、従業員も100名前後のソフトウェア開発を中心とするベンチャー企業だった。
      これらの企業は、いずれも小粒ながらきらりと光る技術を有しており、世界市場を相手に急成長を遂げていることに対する自信にあふれたプレゼンテーションが印象的だった。

  3. カナダの加工食品産業
    (団長:財前三菱商事副社長、副団長:井口西友取締役)
    1. 連邦・州政府のリーダーシップ
    2. 州政府は、(イ)研究開発への優遇税制の実施、(ロ)インターネットを利用した品質・安全・衛生基準などに関する情報の提供、(ハ)商品開発のための研究機関・施設の設立と企業への開放などを通じて企業の情報化や技術革新に対応するための初期投資コストの低減を図っている。

    3. 地域別にみる事業の可能性
    4. (1)カナダ東部
      五大湖周辺から東海岸の米国に隣接した東部地域は、トラックで24時間以内に人口2億5,000万人の市場にアクセスすることができる地理的条件を有しており、すでに米国や多国籍の加工食品企業が対米輸出基地として投資を行なっている。具体的事業としては、(イ)すでに米国へ進出している調味料・飲料・粉加工品・菓子などの日系企業による巨大市場への供給基地としての活用、(ロ)プライベート・ブランドの委託が考えられる。

      (2)カナダ中西部
      小麦粉はパン用粉およびスパゲティー用デューラム粉として、大麦は飼料として、またカノーラはオイルおよび飼料として品質的に優れている。また、地理的に東アジアと米国西部へのアクセスに恵まれている。具体的事業としては、(イ)畜肉加工生産基地や小麦加工生産基地、菜種油および菜種油の副産物生産基地としての活用、(ロ)農業バイオテクノロジー分野の共同研究、(ハ)原料の優位性を活かした事業の生産基地としての活用が考えられる。


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