経団連くりっぷ No.44 (1996年11月28日)

ABAC報告会(司会 立石アジア・大洋州地域共同委員長)/11月5日

"APEC means business"――ABAC日本代表と懇談


ABAC(APECビジネス諮問委員会)では、11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)フィリピン会議に向けて提言の取りまとめを行なっていたが、去る10月24日、報告書を本年のAPEC議長であるラモス・フィリピン大統領に提出した。
そこで、アジア・大洋州地域委員会では、ABAC日本代表の室伏稔伊藤忠商事社長、立石信雄オムロン会長他から報告書の概要について聞いた。

  1. ABAC報告書の概要
  2. ABACの準備会合は今年3回開催されたが、各参加者はこれに3つの基本方針を持って臨んだ。すなわち、
    1. 大阪アクション・アジェンダ(行動指針)を実行に移すための提言とする、
    2. ABACの前身である太平洋ビジネス・フォーラム(PBF)からの継続性を重視する、
    3. 1994年のボゴール宣言以来薄れてきたAPECの再活性化を図る、
    の3点である。

    ABAC報告書には5分野10項目にわたる提言が盛り込まれている。各分野の提言の概要は以下の通り。

    1. 国境円滑化
    2. この分野では、APECビジネス・ビザの創設とボゴール宣言の100%実施に討議が集中した。APECビジネス・ビザの導入については、APECビジネス入国審査レーン(特別レーン)の設置とともに、優先的措置と位置づけている。

    3. 金融・投資
    4. この分野における最大の課題は、投資を阻む障壁を取り除くことと現行のAPECの非拘束的投資原則の強化の2つであった。そこで、報告書には、APEC自主投資プロジェクト(AVIP)の発足を主要提言として掲げた。このほか、APEC非拘束的投資原則の強化、スタンドスティル原則の強化、総合(ワンストップ)投資担当庁の設置等も提言している。

    5. インフラ
    6. ここでは、官民合同インフラ円卓会議の開催を提言した。アジアの発展に不可欠なインフラ整備に対する需要が、これから急速に伸びると予想されている。世界銀行のレポートによると、アジア太平洋地域でのインフラ需要は1997年から2004年の間で少なくとも1兆5千億ドルと報告されている。これはODAだけでは賄えない巨大な金額であり、民間活力の利用が重大な課題となる。各国・地域のインフラ整備の実態を把握し、民間が安心して投資できる保護システムを作り上げていくためにも、官民合同の円卓会議の開催はきわめて有効である。

    7. 中小企業・人材養成
    8. アジア太平洋地域の発展と雇用の創出に、中小企業は大変重要な役割を担っている。このような認識に基づき、APEC中小企業ネットワークの構築、中小企業に関する円卓会議の開催、中小企業関連データの収集、の3つを主要提言としてまとめた。

    9. 経済開発・技術協力
    10. ここでは、新たな経済開発・協力モデル・プロジェクトを打ち出すことを主要提言とした。この中には、官民協力体制および経済開発・技術協力のための地域ネットワークの構築が含まれているが、それらの具体的内容については、次回以降に議論されることとなっている。

  3. ラモス大統領への報告書提出の模様
  4. ラモス大統領には10月24日、マラカニアン宮殿で報告書を提出した。ラモス大統領は、報告書の内容をよく理解し、10項目の主要提言すべてに対して100%の支持を表明するなど積極的な姿勢を示した。中でも以下の5項目については、フィリピンで直ちに実行に移す努力をしたいと意欲を見せた。それらは、
    1. APECビジネス・ビザの創設およびAPEC入国審査レーンの設置、
    2. AVIPの発足、
    3. 官民合同インフラ円卓会議の開催、
    4. 中小企業のネットワークの構築、
    5. 新たな経済・技術モデル・プロジェクトの開始
    である。特に官民合同インフラ円卓会議については、本年11月末にマニラで開催すべく、準備を進めている。

  5. APECビジネス・フォーラム(ABF)について
  6. APECの開催に合わせて、APECビジネス・フォーラムがラモス大統領の肝入りで開催される。これまでのビジネス・フォーラムとは異なり、APEC閣僚との対話の場が会議中に設けられたり、首脳会議の前夜祭にABF参加者が招待されるなど、フォーラムが公式なAPECのプログラムと連携して運営されることとなっている。また、日本の通産大臣や米商務長官などAPECメンバー政府の要人もABFに招待されている。さらに、従来のビジネス・フォーラムが1日の会議であったのに対して、今回は2日間に拡大されており、ホスト国フィリピンの力の入れようがうかがわれる。米国からは多数の参加が予想されており、日本からも積極的な参加が望まれる。

  7. 懇談
  8. 経団連側:
    ABAC参加の18カ国・地域それぞれの経済団体は、どのようにABAC代表団を支援しているのか。
    室伏伊藤忠商事社長:
    ABACの主な役割は、
    1. 各国地域の貿易・投資の自由化のモニタリング、
    2. 域内のビジネス環境改善のための提言
    の2つである。そのため、各国・地域のABAC代表にとっては、いかに自分の国・地域の経済界の意見を吸い上げて、ABACに反映させるかということが大きな課題となる。この具体的方法については各国・地域に一任されているが、わが国の場合は経団連など主要な経済団体で構成するABAC支援7団体から、種々の支援をいただき大変感謝している。豪州、米国、中国など他の国も、経済団体との連携に熱心に取り組み、経済界の意見を反映させている。


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