経団連くりっぷ No.45 (1996年12月12日)

地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/11月15日

サンフランシスコベイエリア開発との比較で見る大阪湾ベイエリア開発の現状と課題


政府の国土審議会において策定作業中の新しい全国総合開発計画では、広域的なネットワークの形成を目指すといわれているが、関西地区ではすでに「大阪湾臨海地域開発整備法」に基づき、広域的なベイエリア開発の推進に取り組んでいる。この広域開発の企画立案、合意形成の促進を行なう大阪湾ベイエリア開発推進機構の堀切民喜副会長から、昨年同機構で視察したサンフランシスコベイエリアとの比較を中心に大阪湾ベイエリアにおける開発の現状と課題について説明を聞いた。


金谷部会長

  1. 堀切副会長発言要旨
    1. 大阪湾ベイエリア開発の目的
    2. 関西圏は、転入人口が10年以上もマイナスであり、産業構造の転換に乗り切れず、経済的なシェアも低下する一方である。
      そうした中、四全総の策定をきっかけに、大阪湾ベイエリアの湾岸周辺諸都市を一体のものとして捉え、再生することを目標に、議員立法で「大阪湾臨海地域開発整備法」が制定された。本法は大阪湾臨海地域41市町村、およびその周辺の関連地域250市町村を対象に、これらの市町村の府県知事もしくは政令市長が作成する整備計画について、公共施設の整備、地方債についての配慮、地方税の不均一課税に伴う減収補填などを措置するものである。そして官民合同で設立された大阪湾ベイエリア推進機構は、この整備計画の策定に際する意見聴取の対象機関に指定された。

    3. サンフランシスコベイエリアとの比較
      1. サンフランシスコ、バークレー、シリコンバレーなどを擁するサンフランシスコベイエリアは大阪湾ベイエリアと湾部の広さは同じである。ただしサンフランシスコは湾の障害を超え、各都市が広く分散しているが、大阪湾の場合、湾岸の狭い平野に大都市が集中しているという違いがある。また、サンフランシスコの海岸線には自然海岸が多く残されており、環境保全に対する意識も高いことから水質も良好である。大阪湾は埋立地など人工的海岸が多く、水質も悪い。そこで現在「なぎさ海道」プロジェクトと称して水辺を市民が散策できるようなエリアにできるよう、整備のコンセプトをとりまとめているところである。

      2. サンフランシスコベイエリアが画期的な点は、ゴールデンゲートブリッジを始めとする7大橋とつながる高速道路を70年代までに重点的、先行的に整備し、環状ネットワークを形成したことである。これにより地域間の交流が増加し、主要都市はもちろん、郊外都市も活性化し、地域全体の発展につながった。一方、大阪湾においては、まもなく開通する明石海峡大橋、大鳴門橋により四国と本州とがつながることになるが、さらに紀淡連絡道路が実現すれば、サンフランシスコ同様の環状ネットワークが形成され、四国から関西国際空港を利用する人口が増えるなど、地域構造を変えるほどの変化があるであろう。

      3. 産業構造としては、都市型産業を根づかせることが必要である。サンフランシスコベイエリアでは、シリコンバレーに新しい産業が輩出しているが、大阪湾臨海地域開発整備法による認定整備計画第1号となった大阪市の大阪湾臨海地域整備計画では、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを中心に情報・通信基盤関連産業を中心とした立地を進めていくことにしている。また、まもなく認定される神戸市臨海地域整備計画はWHO神戸センターを中核として健康福祉関連や環境関連等の新たな都市型産業の立地を進めることになる。

    4. 大阪湾ベイエリア開発推進の課題
    5. 大阪湾ベイエリア開発は東京の臨海部に展開するいわゆるウォーターフロント整備と異なり、既存の土地を活用し直すかたちで進めているため非常に困難が多い。しかし大競争時代を生き抜く上で、都市の再生は避けられない。今後、いかにして大阪湾を活かしていくのか模索し続けたいと考えている。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    紀淡連絡道路を造るとますます淡路島の位置が重要となるが、現状のようなリゾートアイランドを超えた計画が必要となるのではないか。
    堀切副会長:
    現在の計画はいわゆるリゾート法の制定時に構想されたものであり、見直しが必要である。淡路島はシンガポールとほぼ同じ大きさであり、大きなポテンシャルがある。有効活用を考えていきたい。

    経団連側:
    これまでは、隣接する自治体がそれぞれ類似施設をつくることが多かったが、この枠組みでうまく各自治体の協調は図れるのか。
    堀切副会長:
    大阪湾ベイエリア開発推進機構の主たる任務のひとつには、自治体間の合意形成の促進があるが、風土的にも難しい面はある。しかし、仮に類似の施設を隣接した地域につくろうとしても市場原理が働くことになるだろう。バブル崩壊後は自治体も企業も財政面はシビアになってきている。また、道路行政においては、建設省が主導して、大阪湾圏域連絡協議会というものをつくり、関係自治体を一同に集めてその場で道路整備に関する合意形成を図ろうという試みが行なわれており、参考になる。

    経団連側:
    住民の意向をどう反映させるのか。
    堀切副会長:
    大阪湾臨海地域開発整備法の制定当時から問題となっている。特に環境への配慮から、住民の意向を反映させることは必要である。都道府県知事は整備計画策定の際に関係市町村長の意見を聴取することになっており、市町村の役割が重要となる。

    経団連側:
    関西圏には大阪湾臨海地域開発整備法のような枠組みや大阪湾ベイエリア開発推進機構のような団体があるが、東京圏にはここまで総合的なものは存在しない。道路は道路、空港は空港というかたちになっている東京圏の整備のあり方は反省すべきである。


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