経団連くりっぷ No.45 (1996年12月12日)

国際協力委員会マレーシア・プロジェクト参加企業懇談会(座長 青井副会長)/11月20日

マレーシア戦略国際問題研究所(ISIS)日本研究センターの活動状況をリョン所長より聞く


国際協力委員会では、ASEAN諸国を対象とする文化交流プロジェクトの一環として、マレーシア戦略国際問題研究所(ISIS)日本研究センター(所長:スティファン・リョン氏)を資金面で支援している。このたび来日したリョン所長より、同センターの最近の活動状況等について説明を聞いた。

  1. リョン所長説明要旨
  2. スティファン・リョン氏

    1. ISISの設立背景
    2. マレーシア戦略国際問題研究所(ISIS)は、マハティール首相の提唱により、1983年に設立された。外交、防衛、安全保障、経済開発、環境、科学技術などを中心に調査研究、政策提言を行なうほか、官民学の議論の場を提供している。
      マハティール首相は常々、国の政策立案にあたっては、行政以外の第2の意見をも尊重しなければいけないと考えており、ISISにその機能を担わせている。設立当初は政府が全面的に支援を行なっていたが、現在は民間資金で運営されている。
      ISISでは、国内の政治問題を除いて、さまざまな政策提言を政府に対して行なっている。例えば数年前、マレーシアが英連邦からの脱退を検討したことがあったが、ISISは踏みとどまり、内部から改革を行なうべきだと提言し、受け入れられた。
      現在のISISの陣容は、研究者40名、事務職50名となっている。

    3. 日本研究センターの設立の背景と活動
      1. マハティール首相が1981年に、日本や韓国を経済発展のモデルとする「ルック・イースト政策」を唱えたことはよく知られている。日本研究センターは、1991年に経団連とマレーシア日本人商工会議所の支援により、ISIS内に設立された。当センターでは、日本研究を通じて、マレーシアひいては東南アジアにおける日本理解を促進することを目的にしている。
      2. 当センターのレクチャープログラムでは、日本の経済、政治、社会、環境などの幅広い分野をテーマに月1回程度、講演会を開催している。現在までに67回の講演会を開催し、のべ6千名近くのマレーシアや日系企業の幹部、政府関係者などの参加を得ている。これまで、故大来佐武郎元外務大臣、歌田勝弘経団連副会長(当時)、西尾信一経団連国際文化交流委員長(当時)などが講演している。
      3. 研究プログラムでは、貿易、投資、金融、技術、観光、人材育成、政府開発援助、政治・安全保障の8分野で研究を行ない、マレーシアがとるべき政策を提言している。研究成果の一部は出版されており、なかでも「マレーシア人と日本人マネージャーのためのコミュニケーション・ハンドブック」は両国で好評を博している。
      4. ネットワーク・プログラムでは、マレーシアの産官学における日本ウォッチャーを組織化するとともに、海外の日本研究機関とも研究成果、研究者の交流・交換を行なっている。現在、69名のマレーシア人メンバーをネットワーク化するとともに16カ国45名の国際メンバーとも緊密な関係を構築している。
      5. こうした活動の他に、日本に関する情報をデータバンクにして利用する図書館プログラム、日本に関する特別大会議、日本とマレーシアの間の人的交流プログラム、当センターの機関紙「CJS BULLETIN」を通じた情報サービス・プログラムなどを実施している。

  3. 質疑応答
  4. 経団連側:
    マレーシアでは、日本からの技術移転が消極的だと指摘されているが、どう考えるか。
    リョン所長:
    日本企業の多くは、マレーシアに技術移転を行なってきたと説明しており、一方、マレーシア側は、日本からの技術移転は遅すぎると指摘する。真実は、この中間にあるのではないか。
    マレーシアは、2020年に先進国入りすることを目指しており、世界各国の技術を受け入れたいと考えている。そのためマレーシア企業は、日本を含めさまざまな国の企業とも積極的に技術提携したいと望んでいる。

    経団連側:
    日本の防衛力に関して、アジアの国からコメントされることがあるが、どのように考えているか。
    リョン所長:
    ほとんどの東南アジア諸国は、日本の自衛隊が軍事的な脅威を持つとは思っていない。冷戦時代の国際関係では、仮想敵国を想定し、力のバランスを保つことが重要であった。しかし、冷戦が終わった現在、新しい考え方が必要となる。軍事面のみを強調するのではなく、政治や経済まで含めた総合安保に焦点を当てる時期に来ている。協力の可能性は高まっている。
    ASEAN諸国内の関係は極めて友好的である。この友好関係を中国や朝鮮半島など北東アジアまで広げる必要がある。だからこそ、EAEC(東アジア経済協議体)構想が重要となってくる。


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