経団連くりっぷ No.46 (1996年12月26日)

なびげーたー

「納税に値する国家」をめざして

経済本部長 立花 宏


企業や人が国を選ぶ時代において国家が活力を維持するには、財政民主主義を確立し、企業や人にとって納税に値する国家へ変革されなければならない。

経団連では、去る12月9日、財政構造改革に関する提言を公表した。タイトルは、「財政民主主義の確立と納税に値する国家を目指して」である。

プリンストン大学のハーシュマン教授によると、組織や社会を変革する力は二つある。一つは voice(声)であり、もう一つは exit(退出)である。組織の運営において人々のやる気を殺ぐやり方がとられれば、構成員は当然、声を出して改革を求める。しかし改革の見込みがないとなれば嫌気がさして組織から退出していく人が増える。そうした状況になってはじめて組織の内部から改革の動きが出てくると言う。

これを日本に当てはめると、過去、さまざまな提案が出されたものの改革への動きは鈍く、投資や生産、消費、さらには納税の分野においても国内空洞化の様相が目立ちはじめたため、漸く改革の機運が高まってきたと言えよう。

1981年の土光臨調以降の行政改革は、「増税なき財政再建」をテコとして進められてきたが、その実態は専ら国の一般会計の収支バランスをめざした大蔵主導による財政改革の面が強かった。バブルによる税収増、NTT株の売却収入もあって90年度には赤字公債依存から脱却し得たが、歳出構造の根本までメスを入れることが出来ず、結局そのつけは財投などにまわされた。いわゆる「隠れ借金」として今日、その処理が問題となっている。

巨額な貯蓄の存在により財政赤字の弊害はまだ顕在化していない。しかし現状を放置すれば非効率的な公的部門の肥大化と財政赤字の重圧により日本の経済・社会が疲弊していくことは間違いない。

今回の経団連提言は、そうした反省の上に立って、財政構造改革の目標としては、欧米でみられる一般政府(国、地方、社会保険)の支出規模(94年度で対 GDP比34.5%)に着目してその抑制を図るだけでは不十分であり、「公団、公社」を含めた公的部門(94年度で対 GDP比45.7%)の肥大化に歯止めをかけることを打ち出したのが一つの特色である。

国、地方を通じた規制の撤廃・緩和、経済活性化のための税制改革に加えて、財政に関する情報開示や国民に対する説明責任の徹底を通じた歳出の見直しにより、効率的で小さな政府を実現し、民間が十分に活躍できる環境を整備することで企業の競争力を向上させ、納税に値する国をめざしたい。こうした改革によってはじめて歳入が安定し財政健全化が達成できよう。


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