経団連くりっぷ No.46 (1996年12月26日)

経団連提言/12月17日

財政民主主義の確立と納税に値する国家を目指して


財政制度委員会(委員長 伊藤助成日本生命社長/共同委員長 福原義春資生堂社長)では、財政改革専門部会(部会長 小倉利之富士銀行常務取締役)を設け、本年8月より財政構造改革のあり方、とりわけその意義や目標、改革の進め方について検討を進め、この度、「財政民主主義の確立と納税に値する国家を目指して」と題する提言をとりまとめた。
以下はその概要である。

  1. 豊かで活力ある経済社会の実現
  2. 日本を豊かで活力の溢れた社会として次の世代に引き継ぐために、我々現役世代は財政構造改革を実現し、国を「企業や人が納税するに値する国家」へ変革していかなければならない。
    我々は民主的規律、効率性、市場原理の導入、自己責任原則の徹底の4原則に基づいて、財政構造を改革していくことが求められているが、財政構造改革の究極の目標はあくまで経済・社会の活性化にある。国・地方を通じた規制撤廃・緩和、行政改革、歳出の抜本的見直し等により効率的で小さな政府を実現し、民間が十分活躍できる環境を整備することで、企業の国際競争力を向上させ、新産業・新事業創出への道をひらくことが出来る。こうした経済構造改革を伴ってはじめて歳入が安定し、財政健全化が達成できる。国民・企業の側においても行財政に何もかも依存するというこれまでの意識を改め、自己責任原則を徹底し、改革に向けた取り組みに積極的に協力し、国民が自らの税金の使途を主体的に決定する「財政民主主義」を実現しなければならない。

  3. 我々の求める財政の姿
  4. 21世紀にかけて、我々の求める財政とは、国民負担率の上昇を招くことなく、小さい規模で維持されなくてはならない。そのためには、政府が国民に対し、常に財政に関する情報を提供し、説明責任を尽くさなければならず、財政の機能、範囲について「官・民」、「国・地方」の役割分担が適切かどうか、その政策効果が十分に発揮されているかどうか、納税者である国民から不断に検証を受け、その期待に応えるものでなくてはならない。

  5. 10年間の財政再建・構造改革
  6. 我々経済界は財政構造改革の実現に向け、97年度以降の10年間を3段階に分け、目標を定めた計画を策定するとともに、計画・目標を実現を担保するアクション・プログラムを作成するよう、政府に対し提案する。具体的には以下の通り。

    第1期:「緊急財政健全化計画(1997〜99年度)」

    目標:
    プライマリー・バランスの達成、公的部門の支出総額対GDP比率の上昇を抑制
    改革の進め方:
    財政構造改革を確実に実行し、改革の責任を明確にするため、数値目標の設定、計画の策定を政府に義務づける「財政構造改革法(仮称)」を制定する。公会計基準を発生主義会計原則に改め、債務を明らかにするなど情報開示を徹底するとともに、公的分野の関与の基準を示し、歳出の徹底した見直しを実行する。個別政策についても費用効果分析を義務づけ、併せて政策の選択肢を示すことで、国民の財政への監視を強める。更に国と地方のあり方を検討し、地方交付税、補助金を削減の方向で見直す。

    第2期:「財政再建計画(2000〜02年度)」

    目標:
    特例公債からの脱却、中央政府の支出総額対GDP比率の引き下げ
    改革の進め方:
    橋本ビジョンにおける中央省庁の再編等の行政機構の改革を実施し、存在意義が不明確な財投機関(子会社を含む)の廃止・縮小を断行する。

    第3期:「財政規模適正化計画(2003〜06年度)」

    目標:
    公的部門の支出総額GDP比率を現状以上に肥大化することを防ぎ、可能な限り小さくする。国・地方を通じた長期債務残高の縮小を目指す。
    改革の進め方:
    歳出入構造改革、情報開示を引き続き徹底することに加え、国・地方のあり方を根本的に見直し、地方交付税制度と補助金制度の廃止を含めた抜本改革を進め、地方自治体を再編・統合する。

  7. 「先痛再活(せんつうさいかつ)」の改革を
  8. 最大の課題はこれらの改革を政治が実際の政治経済社会の中で如何に実現していくかにある。そのためには、まず、政治の強いリーダーシップと実行力に加え、財政に関する情報を徹底的に開示することで国民の協力と支援を得ていくことが大切である。政治が財政構造改革と整合的な政策を国民に示し、国民が痛みを乗り越えてその政策を支援することではじめて、財政構造改革が現実のものとなる。財政民主主義は、国民各層が財政に関する情報、受益と負担の関係に関する情報を共有した上で、政治的意思決定を民間が理解し、協力し、支援することで達成されるものである。
    「再び豊かで活力ある経済社会を実現するために、先ず苦痛を引き受ける」という『先痛再活(せんつうさいかつ)』の精神のもとで、政治、国民、企業が一体となって財政構造改革に取り組んではじめて、将来に向かって豊かな経済社会への道を切り開くことができる。


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