経団連くりっぷ No.46 (1996年12月26日)

アジア・大洋州地域委員会(委員長 末松謙一氏)/12月3日

貿易・投資の自由化・円滑化に向けて行動開始
−APECフィリピン会議


APECフィリピン会議が11月21日〜25日に開催され、APEC18カ国・地域がそれぞれの貿易・投資の自由化・円滑化に向けて行動を開始することとなった。また、自由化促進を補完・強化するものとして、経済・技術協力の活性化が一層図られるとともに、民間参加の重要性も確認された。
そこで、アジア・大洋州地域委員会では、本会議に参加した外務省の野上義二経済局長と通産省通商政策局の萩原誠司APEC推進室長から、APECフィリピン会議の成果等について聞いた。

  1. 野上経済局長説明概要
    1. 個別行動計画(IAP)
    2. 今回のAPECでは、全メンバーが揃って個別行動計画を提出した。このこと自体、大きな成果といえよう。
      行動計画の実施は、WTOのように協定によってメンバーを強制するものではなく、ピア・プレッシャー(世論の圧力)によって行動を促進する方式を採用している。APECメンバーの経済の発展段階が異なることから、自主性に任せる方が適していると考えられる。
      これらの行動計画は、明年1月1日から実施されるが、明年以降も民間をはじめ種々の意見を踏まえ、改訂作業が継続されることとなっている。

    3. 日本の行動計画
    4. マスコミ等には、ウルグアイ・ラウンド(UR)合意の前倒し実施も含め大胆な提案に乏しく、大阪のアクション・アジェンダ(行動指針)から進歩がないと批判されているが、それは正確ではない。例えば、動植物の検疫ついて、基準検査方法を事前に明らかにすることを記した。これは一見地味に見えるが、輸出国のメリットは大きい。現にASEAN各国から高い評価を得るとともに、ダウニー豪外務大臣からも農業が含まれている点に関して好意的な発言がなされた。
      正直なところ、当初はもう少し中味の濃いものを作成する予定だった。そうならなかったのは、日本に対する他国からのピア・プレッシャーが弱かったことも一因である。特に今回は、ASEAN諸国の結束が弱かった。その理由としては、新規参加問題をめぐって意見の不一致があったことや、ASEAN経済がいわば踊り場に差しかかり、経済成長が鈍化したことなどがあげられる。

    5. 経済協力・開発強化に向けた枠組に関する宣言
    6. APEC域内発展の経済格差縮小と、成長のボトルネック(隘路)除去という観点から、経済・技術協力の重要性が確認された。また、自由化との相互補完性が強く認識された結果、マニラ行動計画と併せて経済協力・開発強化に向けた枠組に関する宣言が策定された。今後も、経済・技術協力は自由化努力とともに「車の両輪」として推進していくことが重要である。

    7. WTOシンガポール閣僚会議への貢献
    8. APECは多角的自由貿易体制の維持・強化という点でWTOと共通の目的を有していることから、今年のAPECは12月のWTOシンガポール閣僚会議に向けて前向きなメッセージを送る役割を担った。
      ITA(情報技術協定)については、シンガポール閣僚会議までにこの問題を解決するというWTOの努力に支持を表明した。しかし、マレーシアが激しく抵抗するなど、発展途上国の理解を十分に得ていないのも現実である。

    9. 非公式首脳会議
    10. ラモス大統領が自ら提案した
      1. アジア太平洋コミュニティの形成、
      2. グローバリゼーション、
      3. APECプロセスのダイナミズムの持続、
      4. インフラ開発
      という4つのテーマについて、首脳間で率直かつ有意義な意見交換が行なわれた。

    11. 新規参加問題
    12. APECメンバーは、APECを拡大することに慎重な姿勢を示したが、97年のバンクーバー会議において参加申請審査のための基準を採択、98年のクアラルンプール会議において新基準に基づき新規メンバー名を発表、99年のオークランド会議にて新規メンバーの参加を承認、という3年間3段階方式で合意した。しかし、参加基準については、各国・地域の意見にかなりの相違があることも事実である。例えば、ベトナムの加盟を支持しているマレーシアは、ASEANのメンバーは自動的にAPECのメンバーにもなるべきだと主張しているが、他国は必ずしも同意していない。また、ロシアの加盟問題についても、アジア・太平洋地域との関係が希薄だから反対であるという意見と、希薄だからこそメンバーにして関係を深めるべきという意見が、相対立して存在している。

  2. 萩原APEC推進室長説明概要
  3. 通産省は、GNP復活論を唱えている。GNP復活論とは、わが国企業の海外生産比率が10%を超え、GNPとGDPの乖離が拡大している中、海外生産を含めたGNPの重要性に再度注目しようという考えである。
    今回の会議では以下の3点に重点を置いた。

    1. 民活インフラ整備のための貿易保険協調の提案
    2. 東アジアにおけるインフラ需要は今後10年間で1.3〜1.5兆ドルに達するといわれ、民活インフラ事業には多くの商機があると見込まれる。途上国でファイナンスできる部分には限りがあるため、公開入札されることが多くなろう。コスト削減のためには、複数の国と協調する必要がある。日本の企業は各国・地域に幅広く拠点を持っているため、これらをうまく利用することによって、ファイナンス面で優位に立つことができると考える。

    3. 投資環境整備への取り組みの提案
    4. 首脳宣言では、対外直接投資の環境改善に向けて「努力を強化」するという表現が採用された。閣僚宣言よりも強い表現で、これは日本の粘り強い姿勢の成果であろう。

    5. 民間意見の反映
    6. ABACの提言については高く評価している。官民の連携は国益につながるため、引き続き民間のAPECに対する意見や、日常の業務の中で障害となっている他国の規制などについて指摘してもらいたい。
      また、行動計画の見直しに当たっては、民間の意見を取り込むプロセスの構築が課題であろう。


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