経団連くりっぷ No.47 (1997年 1月 9日)

経団連第50回評議員会

ニュージーランドの経済改革

ニュージーランド大使 マーティン・ウィーヴァーズ


 ニュージーランドは、かつてOECDで最低レベルにあった経済を、過去10年あまりの改革によって最も開放的で競争力のある経済の一つに変貌させた。12年前、われわれは、高インフレ、低成長、膨張する公的債務、失業率の上昇、巨額の財政赤字、構造的な国際収支赤字、無数の規制、非効率な公共セクター、人口の純流出に悩まされていた。

 しかし、現在は、状況は大きく改善されている。経済への政府の介入が減少した結果、新たな投資や通商の機会が数多く生まれた。法人税および所得税の税率が大幅に低下したなかで、84年にはGDP比で9%近くあった財政赤字が96年には3%の黒字となった。また、ピーク時の公的債務はGDPの52%に達していたが、最近は30%をわずかに上回る水準であり、さらに減少している。純公的債務は99年までにGDPの18.7%未満になる見込みである。

 経済改革の背景には、わが国の経済力が低下しており、真剣な改革が必要であるとの一般的な認識があった。間に合わせの治療ではなく、外科手術が必要であった。そこで、われわれは、中長期的な目標を設定し、それを達成するための政策を決定した。これは、圧力団体と既得権益に対抗し、長期的な国益が何であるのかをつかむことを意味した。

 すべての分野が痛みを経験した。保健と教育の分野でも大規模な改革が行なわれたが、これらの改革は特に困難であった。

 政治的には、改革をトップ主導で行ない、改革の過程を止めないことも重要であった。これは、大きな決断を下し、政治的な批判と痛みをある程度受け入れなければできないことであった。改革のプロセスには必ずコストが伴う。しかし、改革の範囲が広範にわたり、包括的なアプローチが取られる場合は、改革はより容易になる。

 改革の推進力の基本にあったのは、従来のまま産業を保護していては、経済の好転はあり得ないという認識であった。国際競争力と成長力のある民間企業なしには、雇用も収益も伸びず、われわれが望む社会的なサービスを賄うこともできない。港湾、空港、政府印刷局、輸出保険制度、航空管制制度、天気予報など、多くの事業が会社化、民営化され、サービス、価格、品質ともに改善された。赤字企業が黒字化した。残っている国有企業も、補助金に依存することはない。資金を資本市場で調達し、納税し、決算も出さねばならない。また、電気通信、国内航行、国内航空、放送、タクシーなど、多くの分野で市場が開放された。

 また、すべての省庁の業務が見直された。各省庁には、個人として期限付き契約によって採用された事務次官がおかれている。年一度、彼らの任務と責任は大臣との間で合意され、計画が確立される。目標の設定は大臣の権限である。予算は、政府全体の目標と、合意された目標を考慮して交渉される。事務次官は、これらの目標を達成するため、公務員を採用するのである。

 多くの省庁が、大規模な行政管理組織から、小さな政策機関に変貌した。政策の実施や行政サービスの多くは、外部の組織に委託されるようになった。同様の改革は地方政府にも導入された。合併と再編により、その数は205 から73に減少した。

 政府情報法により、公共情報の扱われ方、政治家や行政関係者の国民に対する対応が変わった。準備銀行法により、ニュージーランド準備銀行(中央銀行)は完全に独立した機関となっている。総裁は、大蔵大臣との政策目標合意に基づいて、目標に金融政策を実施する。準備銀行は、金融機関の数を制限することはない代わりに、財政難に陥った機関を救済することもない。財政責任法が財政の公正さを確保している。

 税制は公平、効率的かつ簡素化され、今では、所得税率は3段階で最高税率は33%、法人税率は一律33%、間接税である物品・サービス税の税率も一律である。特定の業界、地方、社会団体などに対する税制上の各種の減免措置や特別制度は廃止され、歳出面でも、農業を含むほとんどすべての分野で助成金が廃止された。

 10年以上におよぶ改革は、多くの困難、政治議論、社会的、経済的な多大な痛みを伴ったが、改革の結果、経済も国家もより強く、より自信を持つようになった。わが国は、他の多くのOECD諸国に比べ、実質ベースの生活水準はまだ低い。努力は継続せねばならない。特に、教育、社会政策、保健サービス、高齢化社会への対応などの分野が重要である。

 わが国でも10月に総選挙があり、前政権党であった国民党と第3党のニュージーランド・ファースト党が連立政権を組んだ。ボルジャー国民党党首(前首相)を首班とする新政権は、現在の経済政策の主要な部分を維持することを確認している。ニュージーランドは、今後も経済を開放していく。


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