経団連くりっぷ No.47 (1997年 1月 9日)

流通委員会企画部会(部会長 丹羽宇一郎氏)/12月16日

電子商取引をめぐる制度的課題


流通委員会企画部会では、電子商取引(以下EC)の普及・推進のために必要な環境整備について検討を行なっている。今回は、東京大学法学部内田貴教授より、ECをめぐるさまざまな制度的課題について聞いた。以下は、その概要である。

  1. EC推進のための法的障害除去
  2. ECを可能にするための最低限の環境整備として、法的障害の除去がある。例えば、契約の成立をめぐる問題、記録保存や証拠に関する問題などに関しては、最低限のルールづくりが必要であるが、これらの法的障害除去のための立法的対応が、各国でばらばらに進められたのでは、それ自体が円滑な取引の障害となる。そこで、今年6月の総会で採択されたUNCITRAL(国際商取引法委員会)の「ECモデル法」が、今後、各国で立法化する際のスタンダードとなることが期待される。

  3. EC発展のためのインフラ整備
  4. 現在では、法的障害を除去するという観点を超えて、ECを安全に確実に行ない、かつそれを促進していくための新たな制度的スキームを構築するという観点から制度論が議論されている。

    1. 電子認証
    2. 例えば、相手方の同一性や取引権限の有無を確認するための仕組みとして認証制度が必要となる。現在までのところ、有効な方法として期待されるのが暗号化鍵を秘密鍵とし、それに対応する復号化鍵を公開する「公開鍵方式」である。

    3. 電子公証
    4. さらに、事後的に契約の内容をいかにして証明するかが問題となる。電子データの場合には、どのような要件を満たせば書面と同等の証拠価値が認められるかについて、一定の法的ルールが定められていることが望ましい。また、電子的データの証拠価値を高める技術的対応として電子公証(電子記録保存サービス)が期待されるが、この場合、サービス提供者自体の信頼性が非常に重要になってくる。

    5. 電子決済
    6. 第3の課題としては、電子空間での安全で確実な決済手段が挙げられる。電子マネーに関しては、さまざまな形態や決済方式が考えられ、実際に世界中で実験が行なわれているが、制度的な問題としては、紙幣類似証券取締法や出資法に抵触しないか、当事者破産の場合の処理はどうなるのか、偽造やマネーロンダリングの危険性はないか、といった点が指摘されている。

  5. ECの今後
  6. ECには、解決しなければならない課題が多くあるものの、単なる通信手段の革新以上のインパクトを持っている。情報革命は18世紀の産業革命に匹敵する変化である。すでに、サイバースペースという新たな可能性を秘めたマーケットがどんどん拡大していっており、それに伴った制度的整備が急がれる。


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