経団連くりっぷ No.48 (1997年 1月23日)

なびげーたー

先行する科学技術分野の改革

産業本部長 太田 元


科学技術分野の改革は、橋本内閣の6つの改革に先行して着手された。今年は次のステップへ進む重要な年であり、産業界のバックアップが不可欠である。

 経団連では、かねてより日本の科学技術基盤の脆弱化に強い危機感を抱いて、産業技術委員会(委員長 山口NTT相談役)を中心に提言を重ね、科学技術分野の抜本的な改革を関係方面に働きかけてきた。幸い産業界の危機意識は科学技術関係者全体の危機感と一体となり、補正予算で応急手当する段階を経て、議員立法による科学技術基本法の制定(95年11月)とそれに基づく科学技術基本計画の策定(96年7月)によって、改革のフレームワークが示された。こうした流れを受けて、科学技術関係の97年度政府予算案は、厳しい財政事情のなかで3兆25億円(前年度比6.8%増)が計上された。

 次のステップは、いよいよ21世紀にふさわしい研究開発体制そのものの構築である。経団連では、新しい研究開発体制のポイントは、

  1. 次代を担う若者に夢、希望、明るさを提供し、高い志をいだけるようなものであること、
  2. 社会的、経済的ニーズ(日本経済の発展と質の高い安全で豊かな国民生活の実現、地球環境問題やエネルギー問題など人類の生存に関わる問題の克服、)に応え得るものであること、
  3. 国際化はもとより学術分野や産業分野などさまざまな分野で進むボーダレス化に対応したものであること、
と考えている。

 また、欧米主要国が、昨今、国際競争力強化を主眼に置いた科学技術政策を戦略的に展開していることを踏まえ、産業技術基盤の強化についても合わせて検討を進めていく必要がある。

 これまでは、科学技術は専門性が高く、なかなか一般の人々の関心を繋ぎ止めておくことが難しいという理由から、専ら関係者の中だけの議論に終始するきらいがあった。残念ながら科学技術基本法にしても科学技術基本計画にしても、一般にはほとんど知られていない。また、科学技術基本計画を策定した科学技術会議(議長 総理大臣)の存在もほとんど知られていないのが実状である。

 確かに科学技術の成果が身近なものとして実感できるまでには時間がかかるのも事実である。しかし、今後の改革を進めていくうえで、専門家の中の議論だけでは社会的にパワー不足である。しかも、厳しい財政事情のもとで科学技術の振興に予算を投入していくためには、納税者に分かる形で改革を進めていかねばならない。

 産業技術委員会としては、こうした点も十分踏まえて活動していきたいと考えている。


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