経団連くりっぷ No.48 (1997年 1月23日)

クラーク・英国大蔵大臣一行との懇談会/1月10日

通貨統合と英国の姿勢および金融制度改革につき意見交換


さる1月8日から10日にかけ来日した英国のクラーク大蔵大臣一行を招き、豊田会長、那須副会長、熊谷副会長および奈良金融制度委員会企画部会長ほかと通貨統合ならびに金融制度改革について意見交換を行なった。以下はクラーク大蔵大臣一行との懇談内容である。

  1. クラーク大蔵大臣発言要旨
    1. 通貨統合と英国の姿勢
    2. 統一通貨については欧州主要国の合意の下に行なわれるべきであり、英国内においても両党合意の下に行なわれるのが最も望ましい。仏、独に歩調を合わせて第一陣に加わるか、それとも後で加盟するかだけの違いであり、英国の利害をよく考えてから決定する予定である。英国は通貨統合に向けての交渉で主要な役割を演じてきており、今後とも積極的に参加していく予定である。

    3. 通貨統合のあり方
    4. 通貨統合の第一の目的は統合された各国経済が、1つの中央銀行の下で同じ通貨政策を実施し、EU域内の為替コストならび貿易から生ずる為替リスクをなくすことにある。ユーロが安定した強い国際通貨になれば、中央銀行は物価の安定を保障し、低金利と安定した健全な市場を提供することになるであろう。しかし、導入に際して、(1)加盟国の構成、(2)真の意味での「経済統合」になるのか、(3)新通貨政策がきちんとEU域内で機能するかどうか等、多くの不透明な問題がある。私個人の意見ではあるが、英国は今後とも交渉には参加し続け、2つの交渉オプションを確保しつつ、統一通貨に参加するのは今世紀の終わり頃になるであろう。

  2. 通貨統合に関する質疑応答
  3. 経団連側:
    通貨統合の長所および短所については
    クラーク大臣:
    通貨統合の長所は、EU市場域内における為替コストおよび貿易の支払い業務を軽減することを可能にし、安定した市場、低金利という良い状況を作り出す。一方、短所は、経済統合が不完全で、市場競争力喪失、柔軟性欠如という状況が生じた場合、市場での不安定要因が増幅され、保護貿易の動きが生ずるおそれがある。

    経団連側:
    英国が通貨統合に加盟しないデメリットについては
    クラーク大臣:
    シティーがその通貨統合の枠組みから外れても現在の主要金融拠点としての地位が確保されるよう交渉をしていく。

  4. 金融制度改革に関する質疑応答
  5. 英国側:
    英国の民営化では民間金融機関のノウハウが十分に活かされた。例えば株式市場の国際化、内外からの自由なアクセスを実現する上で民間の知識・経験が活かされた。日本でも民営化においてもこれらのノウハウの導入と制度面での整備が必要なのではないか。
    経団連側:
    金融制度を改革するにあたって留意すべき点は、監督官庁、検査当局が縦割りになっている点である。国際資本市場に参画するには日本の金融制度、システムを一元化する必要がある。また、公的金融機関の見直しも必要である。

    英国側:
    金融制度改革を含む一連の抜本的改革において経団連は何が出来るのか。現状の金融制度では日本企業が国際市場において競争力を失うのは時間の問題である。
    経団連側:
    行政改革委員会ができて3年目になるが、かなりの改革が行なわれてきている。しかし、規制撤廃・緩和になったものを如何に実行していくかという問題があり、この点については経団連会員会社が実施していかなくてはならない。

    英国側:
    英国においてPFI(民間資金調達制度)は、民営化推進プログラムの第2段階のプロセスにおいて発足し、国際金融市場において高い評価を得ている。日本において規制緩和・民営化推進を行なう場合、PFIは導入されるか。
    経団連側:
    現在、来世紀に向けてインフラを整備・強化すべき時期にきているが、そのための税収・財源がなくて困っている。そこで、私どもでもPFIについて勉強中である。PFIは政府にとって長期的に利益をもたらすか。
    クラーク大臣:
    PFIは政府にとって有効な施策である。官僚機構からの反発もかなりあるが、民活の資金そして経営手腕は大変重要な要素である。政府の弱い部分を切り離し、民間に任せ、国民へのサービスを向上し、国は特定の業務だけに専念すれば良いのである。従来政府の所管であった基幹インフラの分野の民営化が行なわれる等、英国は、来世紀に向けて、劇的な変革期にある。


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