経団連くりっぷ No.48 (1997年 1月23日)

貿易投資委員会(委員長 北岡 隆氏)/12月20日

WTOシンガポール閣僚会議の成果と今後の課題


貿易投資委員会では、12月9日〜13日にシンガポールにおいて開催された第1回WTO閣僚会議の成果と今後の課題について野上義二外務省経済局長ならびに石丸雍二通産省通商政策局国際経済部長より説明を聞くとともに、意見交換を行なった。

  1. 閣僚会議の全体的評価
    野上外務省経済局長
    1. 閣僚会議前の各国の利害調整
    2. マラケシュ協定発効から2年を経過し、ポスト・ネゴシエーション・ファティーグ(交渉疲れ)から脱し、さらなる自由化を推進する時期にきている。そこでわが国は、本閣僚会議においてUR合意の実施状況の点検だけでなく、WTOのさらなる発展に向けた「新たな課題」、「さらなる自由化」を積極的に取り上げることを目指した。「新たな課題」については、貿易と投資に関するカナダとの共同提案作成等の作業を行なったが、インドやASEAN諸国(インドネシア、マレーシア)が否定的立場を堅持した。「さらなる自由化」についてもITA(情報技術分野における相互関税撤廃)締結に反対する途上国、農業イシューの議論を求めるケアンズ・グループなど各国の利害が対立した。このように、閣僚会議直前まで先進国と加盟国の5分の4を占める途上国の利害調整は難航した。

    3. 閣僚会議の特徴
    4. 本会議では、米国の強いイニシアティブが感じられなかった。GATT時代の米国はグランド・デザインを持っていたが、本会議では情報技術協定と貿易と労働基準のみに焦点を絞り、投資、競争政策などその他の交渉に関してはネガティブな対応を示した。欧州やWTOに前向きな途上国の代表はこのような米国の姿勢に不満を表明した。
      一方、ブラジルやチリなどの中進国が貿易と投資の作業部会設置などに前向きな姿勢を示したこと、「新たな課題」に関して会議直前まで否定的立場を取ってきたマレーシアが支持派に転身し、他の途上国がそれに追随する形になったことなどが功を奏し、具体的成果を生み出すことができた。

    5. 成果と今後の課題
    6. 会議直前まで具体的成果をあげることができるかどうか定かではなかったが、(1)ITAの成立、(2)貿易と投資および貿易と競争政策における作業部会の設置など期待以上の成果を得ることができた。
      今後、貿易と投資および貿易と競争の作業部会設置などの合意事項に関してジュネーブで具体的作業が進められていくが、途上国の不満が再燃する可能性ならびに先進国間の解釈の相違が露呈する可能性は十分ある。貿易と競争の相互連関などについては今後十分議論していく必要がある。

  2. 閣僚会議の具体的成果について
    石丸通産省通商政策局国際経済部長
    1. ITAについて
    2. ITAは、96年はじめから四極間政府ベースで話し合いが進められ、具体的話し合いは四極、APEC諸国を中心に進められてきた。そして、11月のAPECマニラ会合において首脳・閣僚ベースの支持を受け、本閣僚会議での合意に至った。ITA参加国は、14カ国(日、米、EU,カナダ、韓国、インドネシア、台湾など)で、将来的に参加を表明している国々(フィリピン、メキシコ、マレーシア等)も含めると、情報技術製品の世界貿易の90%を占める。合意内容は、半導体、コンピュータ、コンピュータソフト、テレコミ、などの合計200品目におよぶ情報技術製品の関税を原則として、97年7月より4段階で引き下げ、2000年1月までに関税を撤廃するというものである。わが国は、ウルグアイラウンド合意の実施を完了する99年度時点で4品目(導線3品、ウェーバー1品)を除いて関税撤廃を実現することになるが、米国は200品目、EUは250品目の関税撤廃を実現しなければならない。97年1月に開催される技術会合において実施の詳細が決定される。
      ITAの意義は、
      1. 輸出が容易になること、
      2. 無税で部品や事務用機器などが入手できるため国内産業の競争力が向上すること、
      3. 外資受け入れに有利に働くこと
      などがあげられる。

    3. 「新たな課題」について
    4. 貿易と投資に関する作業部会の設置は、対外直接投資額が急増している日本(95年度:約3,200億ドル)にとって歓迎すべきものである。2年間の検討を踏まえ、マルチの投資協定が作成されることを強く望む。
      競争政策に関する作業部会については、競争政策サイドのみでなく、アンチ・ダンピング法の運用や通商政策も取り上げるべきであると主張した。閣僚宣言には、競争政策・貿易措置の両面を含めた包括的な検討作業の開始が盛り込まれている。

  3. 質疑応答
  4. 経団連側:
    中国、台湾のWTO加盟については閣僚会議の場で話し合われたのか。
    野上外務省経済局長:
    中国加盟の促進については表向きにはあまり議論されなかった。今後、ジュネーブにおいて加盟実現に向け具体的交渉が行なわれていくが、法律改正など中国側の課題が山積していることから、早期加盟は難しいと考える。
    台湾の加盟は、加入議定書および市場アクセスについてはほとんど問題が無く、かなり具体化している。来年の春にはまとまる交渉だが、政治的なタイミングが難しい。

    経団連側:
    わが国産業界のWTO閣僚会議への関わり方について意見を伺いたい。
    石丸通産省通商政策局国際経済部長:
    各業界の声を協定に反映させていきたい。閣僚会議の場ではアドバイザーのような形で協力していただくことも考えられるが、具体的方法については今後考えていきたい。


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