経団連くりっぷ No.48 (1997年 1月23日)

首都機能移転推進委員会企画部会(部会長 水上萬里夫氏)/12月25日

首都機能移転の経済効果に関する検討結果と今後の課題


96年12月19日に平岩経団連名誉会長を会長とする国会等移転審議会の第1回会合が開催され、首都機能移転はいよいよ実現に向け新たな段階を迎えた。こうした状況を踏まえ、企画部会では、11月末に「中間とりまとめ」を公表した経済審議会首都機能移転委員会の検討結果と今後の課題について、経済企画庁の赤井計画官から説明を聞くとともに、今後の委員会活動について検討した。

赤井計画官説明要旨

  1. 昨年2月、橋本首相が主催した行政改革委員会委員長、経済審議会会長、地方分権推進委員会委員長および国会等移転調査会会長との懇談会において、橋本首相から、行革に関連するこれら4審議会等が有機的な連携を確保していくとともに、特に経済審議会において首都機能移転の経済的な効果等について検討を行なうよう指示があった。
    指示を受け経済審議会は首都機能移転委員会を設置して、首都機能移転について経済的観点から幅広い検討を行なうこととし、昨年5月より審議を開始した。計6回の会議の審議成果を11月末に中間とりまとめとして公表した。

  2. 首都機能移転委員会では、これまでの検討の経緯と今後の予定等を踏まえて、以下の3つの視点から試算・検討を行なった。

    1. 経済の構造改革
      首都機能移転が行政改革、規制緩和、地方分権などの推進と相まって、日本の経済構造の改革におよぼす影響を分析する。
    2. 地域経済とマクロ経済への影響
      首都機能移転が資本、労働の移転等を通じて、移転先の地域経済とその総和としてのマクロ経済に与える影響を分析する。
    3. 東京経済に与える影響
      首都機能移転が東京経済に与える影響を分析し、世界都市東京の21世紀の姿を展望する。

  3. 首都機能移転の経済効果については、野村総合研究所や富士総合研究所などの民間のシンクタンクが産業連関分析等の手法を用いて試算を行なっている。これらはいずれも、「首都機能移転問題に関する懇談会」の報告で示された移転規模の試算(約60万人、約14兆円、約9000ha)に基づいて計算しており、建設投資からの経済波及効果は25兆円程度に及ぶと算出している。
    このような分析も重要であるが、首都機能移転の経済的影響・効果は、一時的な経済波及効果やビック・プロジェクトの及ぼす効果と異なっている。そのため首都機能移転委員会では、経済効果の検討に際して以下の3つのアプローチを基本方針とした。
    1. 需要面よりは供給面からのアプローチ
    2. 短期的ではなく中長期からのアプローチ
    3. 特需的な効果ではなく、構造改革による経済効率化からのアプローチ

  4. このような方針の下、次のような手法を用いて試算を行なった。

    1. 中長期的な経済効果
      移転先新都市を含む県域および東京都の総生産(供給)への影響をこの生産構造を示す地域生産関数を用いて計算する。
    2. 超長期的な経済効果
      主要な産業分野・経済指標に対して多極分散的な国土形成の進展を仮定したシナリオを構築し、このシナリオの基づく個別の計算を行なう。
    3. 個別の経済効果の算出
      首都機能移転による影響については、個別に算出方法を考案して試算を行なう。

  5. 具体的には移転先の1人当たりの県民所得に応じて、高位県、中位県、低位県の三つを設定し、前述の「懇談会」で示された移転の最大規模を前提に地域生産関数の性格を踏まえて中長期(2000〜2019年)の効果を分析した。分析結果のポイントは次の通りである。
    1. 移転先の県民経済への影響は、経済成長率への寄与で年率0.1〜0.3%のオーダーである。
    2. 移転先県では、中位県、低位県、高位県の順で影響を受ける。
    3. 東京都への経済的影響はほとんどない。
    4. 移転先の県と東京都を比較した場合、相対的に移転先県のほうが大きな影響を受ける。

  6. 本来、首都機能移転の経済効果は数十年の長いスパンで検討する必要がある。首都機能移転の実質的な効果は超長期にわたり徐々にわが国全般に浸透し、産業、国民生活面等におけるさまざまな構造変化の形で現れてくると期待されるからである。
    また、首都機能移転には「東京問題」に起因する外部不経済の緩和・減少等といった効果もある。個別の経済効果として、
    1. ごみ処理問題の緩和(年間5万トンの減少により38億円の負担軽減)、
    2. 水需要の緩和(4500万トンの需要減少によりダム建設費換算で160億円の便益)、
    3. 交通渋滞の緩和(道路交通量の減少による年間270億円の便益及び地下鉄のピーク時輸送量の12%の減少により、新線建設費相当で1600億円の便益)
    の3つを算出した。
    さらに、東京に大規模地震が生じた場合に被る経済的損失、人的損失の大きさを考え、防災上の観点からも首都機能移転を真剣に検討する必要があるが、この点は今後の検討課題とした。

  7. 今回の試算は、試算方法に多くの仮定を含み、根拠となる移転規模、期間等にも不確定要因が多いことから、あくまでも中間的・暫定的なものであり、今後さらに精査していく必要がある。委員からも、中央省庁再編、地方分権、規制緩和の進展を考慮してケース毎に経済分析を行なうべきだ、あるいは災害に対するリダンダンシー(余裕)を確保することの経済的メリットの分析を行なってはどうかなどの意見が出されている。今後は国会等移転審議会や行政改革会議の審議状況等を踏まえつつ、これらの課題について、詳細に検討していく必要があろう。


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