経団連くりっぷ No.48 (1997年 1月23日)

農政部会(部会長 山崎誠三氏)/12月24日

農地法を中心とした農政改革の方向


経団連では、現在進められている政府の農業基本法の改正に向けた検討に経済界の意見を反映させるため、農政部会において鋭意検討を行なっている。今回の会合では、明治学院大学の神門善久助教授を招き、市街化区域外の農地に関する利用規制・税制について説明を聞くとともに意見交換を行なった。以下は神門助教授の説明の概要である。

  1. わが国農業の問題点
  2. わが国では、多額のタナボタ的転用収入に対する期待と、借り手の権利偏重の商習慣により、零細・非効率な農家であっても農地の売却・貸出に消極的となり、大規模営農が実現できない。タナボタ的転用収入が可能となるのは、農地転用規制が不透明で農地税制に歪みがあるためであり、それらの改善が不可欠である。

  3. 農地転用規制の問題点
    1. 農振法において「農振農用地」に指定されれば農業政策の補助事業の対象となり、農外転用は禁止される。しかし、この指定が農家に迎合して安易に変更されるのが実態であり、一旦指定を受けて補助金を獲得し、転用事案が具体化した際に変更を働きかけるというエゴすらまかり通っている。
    2. 農地法における農地の分類方法や転用の可否を決定する基準が曖昧で、運用者の恣意性が入りかねない。

  4. 農地課税の問題点
    1. 現在農地の固定資産税は、転用価格を一切考慮しないことから、納付額は10a当たりせいぜい数千円程度で済む。
    2. 相続税の評価における市街地周辺農地、中間農地、純農地の線引きが曖昧で、また純農地の評価が非常に低いため、よほどの大規模所有でない限り、相続税は控除額の範囲内に収まる。
    3. 譲渡所得税は各種の控除制度により実質的な累進税率になっていることから農地が切り売りされる場合が多く、大規模化が進まない。加えて、公共事業のための農地売却に際して、譲渡所得の減免や納税猶予要件の緩和など、特典が多いということも税制上の歪みとしてとらえられよう。

  5. 農業政策の改善方向
    1. 農業にも競争メカニズムを導入するためには、まず農地利用規制を透明化すべきである。その後、農地所有制限の撤廃など大幅な自由化を進めるべきである。
    2. 保全すべき農地とそうでない農地の線引きを明確にしたうえで、前者については転用規制を厳格に適用し、後者については転用規制を大幅に緩和するとともに、宅地と同等の課税をすべきである。また、農地評価の統一性・公開性を高めたうえで、負担水準を引き上げることも重要な課題となろう。


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