経団連くりっぷ No.49 (1997年 2月13日)

アメリカ委員会(委員長 槇原 稔氏)/1月20日

WTOをめぐる日米中の動向
―ロックフェラー上院議員との懇談会


ウェスト・ヴァージニア州の貿易ミッションを率いて来日中のロックフェラー民主党上院議員より、第2期クリントン政権下の政治・経済情勢と日米関係の展望に関する説明を聞き、懇談した。

  1. ロックフェラー上院議員説明要旨
    1. 米国にとって最も重要な日米関係
    2.  米国の日本パッシングが懸念されていると聞くが、日米関係は米国にとって、他のどの2国間関係よりも重要である。中国との接触が増えてきたが、米中関係の進展により、日米関係が希薄になることはない。

    3. 第2期クリントン政権
    4.  第2期クリントン政権は中庸を旨とし、超党派でやっていくだろう。新国防長官に共和党のビル・コーエン議員を据えたのは、その証である。
       米国は外交の重点を大西洋からアジア太平洋に移している。米国民の関心も大西洋から離れ始めている。米国が今後アジアへの傾斜をさらに強めるためには、日本との関係強化が不可欠である。
       オルブライト新国務長官は、これまでアジアと馴染みが薄かったが、それ故かえってアジアとの関係強化に努力するのではないか。国家安全保障委員会のサンディ・バーガー新担当補佐官は日本、アジア通を自認しており、今後対アジア政策に力点を置くと思う。ビル・コーエン新国防長官はアジアや日本の問題に詳しく、何度も来日している。

    5. 日米関係の現状と展望
    6.  日米関係は、かつての対決型から脱却し、ようやく成熟の域に到達しつつある。
       日米関係は、その緊密さ故に常に難しさを伴っている。両国には同盟国として乗り越えるべき課題があり、また、潜在的な経済問題がある。さらには世界のリーダー同士として、意見の相違もある。これが、日米が相手に対していらだちを感じている原因である。しかし、両国は2大経済大国であり、すべての問題で合意できると考えるのは非現実的だ。重要なのは、正直に、直截的に問題に取り組むことである。公正な貿易の実現、安全保障の維持など世界全体が裨益する目標の達成に向け、両国は歩み寄る努力を続けるべきである。
       日米構造問題協議で日本側から提起された問題点を、米国側はよく認識し、改善に努めてきた。クリントン政権下、連邦政府の赤字は、74年以来最低のレベルにまで減少している。4年間で連邦職員24万3千人が整理されるなど政府の規模も劇的に縮小している。一方、日本にとっても、今こそ諸システムを全体的に見直し、抜本的な改革を断行する時期である。電気通信、小売、航空、金融サービス、港湾等の分野の規制緩和は特に重要である。

    7. WTOに関する問題点
    8.  WTOについて、日米間で見解の相違がある。日本はWTO一辺倒の方向に進んでいるようだ。もちろん米国もWTOを尊重しているが、一方で、従来通りの2国間交渉を非常に重視している。日本政府はWTOの活用により、米国との直接的な議論を避けようとしているのではないか。2国間交渉で解決できる問題はバイで片づけて、WTOの負担を減らすべきだ。WTOへの依存を強めることは、短期的には日本にとってメリットがあるかもしれないが、長期的には米国民の不満が溜まり、かえって両国関係にマイナスの影響が出る恐れがある。米国はWTOの創設に尽力してきたが最近はあまり積極的ではなく、政治家から一般国民に至るまで、WTOに対する支持基盤は脆弱だ。
       中国のWTO加盟は極めて重要である。ただし、知的所有権の保護、外資制限の撤廃、不公正な貿易慣行(膨大な補助金による特定産業・企業の育成など)の廃止などの条件を中国側がクリアーしなければ、加盟を許すべきではない。もちろん中国がこうした問題を解決するのに時間がかかることはよく理解している。中国は指導層の交替時期に差しかかりつつあるので、中国への対応は慎重に、現実的に進めなければならない。米国がこの問題で硬直的になり、中国に米国流の理想主義を一方的に押しつけて、完璧な答えを求めることは決して好ましいものではない。
       米国は、自国だけが「悪い警官」役を演じることに危惧の念を抱いている。米国だけが厳しい条件をつきつけ、欧州と日本がその成果に「ただ乗り」し、WTO加盟後の中国が欧州と日本を米国より好意的に扱うのではないかと恐れている。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    日本の経済界も2国間交渉の重要性をよく認識している。われわれが恐れているのは、スーパー301条のような一方的な措置により貿易問題を解決しようという風潮が米国内にあることだ。
    ロックフェラー議員:
    日本人の心配をよそに、これまで301条は実際にはそう頻繁に使われてこなかった。WTOはパネリストの設定が難しく、また従うべきルールがはっきりしない。もし日本が2国間交渉に背を向け、WTOしか相手にしなくなったら、米国にとって301条の方が魅力的に見えてしまい、かえってユニラテラリズムに頼る可能性を高めてしまうかもしれない。

    経団連側:
    96年4月に日米安保に関する共同宣言が出て以降、中国の日本に対する態度が厳しい。中国の対米、対日政策をどう見るか。
    ロックフェラー議員:
    今後の日米中関係の展開は、今秋の中国共産党全国大会の結果に左右される。ここで中国の政治的、軍事的方向性を見極め、日米は然るべき対応を検討するだろう。

    経団連側:
    日本の改革をどう見ているか。
    ロックフェラー議員:
    日本には改革を進めるにあたって根本的な問題がある。大蔵省の予算案に政治家が手を加えたことは一度もないと聞くが、米国では考えらえない。意見を表明しないということは、選挙で選出された議員としての責務を果たしていないことを意味する。日本の政治家も、もっと政策に力を入れるべきだ。


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