経団連くりっぷ No.49 (1997年 2月13日)

アメリカ委員会(委員長 槇原 稔氏)/1月14日

2002年での財政均衡達成へ向け、クリントノミクス2期目の課題


第1期クリントン政権において財務省の租税担当次官補を務めたレズリー・サミュエルズ氏を迎え、第2期政権の幕開けにあたり、中心的課題となる予算、税制問題について説明を聞くとともに懇談した。以下はその説明要旨である。

  1. 2002年財政均衡を展望した予算作成
  2.  大統領は2002年の財政均衡を公約に掲げており、議会もこの目標に向け、民主、共和両党とも協調と妥協を口にしている。
     2月に発表される予算案もこの目標を展望したものとなるだろうが、達成は容易ではない。予算をめぐる議論の中心になると思われるのは、エンタイトルメント・プログラム(福祉予算)の中のメディケア(高齢者向け医療保障)とソーシャル・セキュリティ(社会保障)改革である。「メディケアを削って富裕層に対する減税のための資金を賄おうとしている」と共和党を非難してきた大統領は、本年も昨年同様、医者や病院といったメディケア・サービスを提供する側への支払を低減する形での削減案の提案、並びにメディケアの将来を考えるための超党派委員会の設置を要求するであろう。ただし実際に削減されるかどうかは微妙であり、もし実現できない場合には、社会支出プログラムや国防費のカットが要求されることになる。
     歳出削減の苦痛を軽減する方法として年間の生計費調整のコストを見直す提案がある。例えば、社会保障年金給付は生計費変動にスライドして毎年自動的に調整されるが、生計費の調整が実際の生計費変動を過大評価しているという意見があり、調整分を削減すれば相当な額の節約ができる、というものである。モイニハン上院議員は1.1%の削減により、12年間で1兆ドルが節約できると言っている。技術的、科学的な根拠を以って、CPIが生計費の実費上昇を過大評価していると証明されれば、CPI調整実施の可能性は大幅に増大する。またソーシャル・セキュリティー改革については、システムの部分的民営化や資金の一部を株式市場に投資する案が諮問グループから提言されたが、コンセンサスを得るまでには至っていない。今後ソーシャル・セキュリティー・プログラムの支払能力の問題の解決策として、退職年齢の変更と並んでやはりCPI調整が議論されるであろう。

  3. 税をめぐる動き
  4.  歳出削減が厳しい時にどうして減税か、と思われるかもしれないが、大統領も共和党も減税を均衡予算パッケージの一環と公約している。予算合意における税についての動きは3つある。第1は中所得者層への減税パッケージの実施で、子供のいる家庭や教育に関する税制上の優遇措置、貯蓄奨励等、なんらかの組み合わせになりそうである。第2はキャピタル・ゲイン課税に対する減税で、個人向けキャピタル・ゲイン課税に対する減税が有り得る。そして第3は、一方で「税の抜け穴対策」と呼ばれる増税があるという点で、コーポレート・ウェルファー、すなわち企業に利する歳出プログラムの廃止と、企業側の税の抜け穴をふさぐための追加提案が出てくるだろう。
     他方、米国における抜本的な税制改革についての論争は下火になっており、引き続き関心の高い課題ではあるものの今回の予算交渉には含まれないだろう。

  5. 貿易をめぐる動き
  6.  米国では低・中所得者層と高所得者層の収入格差が問題となっているが、共和党右派のパット・ブキャナン氏は、NAFTAやウルグアイ・ラウンドのような貿易協定がこの問題の原因であると指摘し、また左派のエドワード・ケネディー上院議員は、米国の雇用が他国に流出していることを憂えている。このような考えは保護貿易主義につながる可能性があり、注意深く監視していく必要がある。クリントン政権は開かれた市場と公正な貿易を公約している。
     貿易問題に関して1995、96年は比較的平穏であったが、97年には中国や日本との未解決の貿易問題の進展等、動きが活発化してくると思われる。また中南米諸国との貿易交渉も重要なテーマであり、大統領はこの春、中南米諸国歴訪を計画している。
     貿易、投資問題のもうひとつの側面として移転価格問題がある。国際社会が、多国籍企業への二重課税のリスクをなくすための共同歩調をとることが必要で、よって移転価格についてのOECDでのコンセンサスが重要となる。クリントン政権はアームスレングス・スタンダードを支持している。ドーガン上院議員はフォーミュラー・システムを支持しているが、配分のためのフォーミュラーはもちろん、ユニタリービジネスの定義について国際的なコンセンサスがつくられるのかどうかの問題がある。

  7. その他注目すべきテーマ
  8.  米国は、国境を越えた投資と貿易を円滑にするための租税条約のネットワーク作りを公約している。第1期クリントン政権において、14の租税条約並びに議定書が上院により承認され、さらに調印済みの6つの条約が、財務省により上院宛て1997年中の承認を求めて提出されることとなっている。
     また外国政府に対する贈賄行為をなくすための国際的な取り組みも注目すべきテーマであり、先ごろOECDでは、不正支出を税に関する控除対象とはしない旨の解決策が採択された。次のステップは不正支出を刑事罰の対象とすることの検討である。
     さらにインターネット技術の発達により、これを利用したビジネスについての税制上の取り扱いをどのようにするか、という難しい問題が提起されているが、財務省はいかなる新規の税も課さないことを発表した。諸外国もこの問題に注目しており、OECDでの検討が行なわれているところである。


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