経団連くりっぷ No.50 (1997年 2月27日)

農政部会(部会長 山崎誠三氏)/2月12日

新しい農業基本法の理念と農政改革の課題


農政部会では現在、政府の農業基本法の見直しに向けた検討に経済界の意見を反映させるため、提言とりまとめの作業を行なっている。その一環として、東京大学農学部の生源寺真一教授を招き、新基本法の理念と農政改革の課題について説明を聞くとともに意見交換を行なった。以下は生源寺教授の説明の概要である。

  1. 見直しの基本視点
    1. 現行の農業基本法は、日本経済の高度成長に農業をどう適応させるかというキャッチアップ・適応型の法律であった。しかし新基本法においては、単一の理念ではなく、食料の安心、持続する農業、美しい農村といった複数の理念を矛盾することなく高いレベルで調和させる必要がある。

    2. 市場の機能と政府の役割を再編成し、市場メカニズムに任せる部分と計画的に進める部分を明確にすべきである。また、消費者負担型から財政負担型の農政への転換を図るとともに、政策とその決定過程を透明化する必要がある。

    3. WTOの交渉において先手を打ち交渉を有利に運べるような懐の深い政策体系を確立する必要がある。また、わが国と同様に水田農業を基本とするアジア諸国の未来を視野に入れた政策展開が重要である。

  2. 政策課題
    1. 食料自給率
       ミニマムの自給力を維持することは、一種の社会的インフラといえる。1日1人2,000kcal程度の生産力は維持できるべきではないか。国内においては具体的な見通しに立った供給力の強化策が必要である。
       また農産物の貿易相手国に対して、その生産力を維持・向上させる観点から援助を行なうことも重要である。

    2. 農業構造と価格政策・所得政策
       構造政策の目標は、担い手にとって魅力のある経営環境を創りあげることである。農産物価格が低下するなかで、地代を圧縮し担い手の取り分が確保できるような所得補償のシステムが必要となろう。

    3. 農地政策
       現行の農地規制は「計画なき規制」である。権威のある土地利用計画制度に転換し、しっかりとしたゾーニングを行なう必要がある。また、多数の農地所有者と向き合う大規模借地経営者の土地貸借をめぐる負担を軽くする仕組みが必要である。

    4. 農業農村整備
       基盤整備に係る費用対効果の分析を行なうことが重要な課題となるが、事後評価システムを確立することにより適正な事前評価も可能となろう。また、農業農村整備の効果を生産者と消費者の利益・コストに分けて分析する必要がある。


くりっぷ No.50 目次日本語のホームページ