経団連くりっぷ No.51 (1997年 3月13日)

地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/2月19日

大震災復興の鍵を握るエンタープライズゾーン


経団連では、新しい全総計画の策定を機に、大競争時代の産業振興という観点から、政府に対して期限・地域等を限定した試行的・戦略的な政策を導入するよう求めている。今回は、大震災からの復興に向けて、条例によるエンタープライズゾーンを設定した兵庫県と神戸市、そして(財)阪神・淡路産業復興推進機構の関係者から被災地の現状と新しい制度の特徴などについて説明を聞いた。

  1. 被災地の現状と課題
    ─倉持治彦 兵庫県商工部長
  2. 被災地域の産業は、全体として大震災前の9割まで復旧したが、ケミカルシューズなどの地場産業、10万人もの人口流出の影響を受けた商業、イメージ低下の影響を受けた観光業など、業種によっては、依然として大震災の影響が残っている。製造業については、大震災以前から構造転換に迫られており、新産業・新事業の創造・育成などに取り組んでいる。
    中でもエンタープライズゾーンについては産業復興の起爆剤として県・市一体となって取り組みを行ない、協力してそれぞれ条例を制定した。国はFAZ法の特定集積地区の指定をするなどの施策を講じたが、地元が求めているゾーン内での国税の減免、規制緩和の特例などについては実現していない。国からの「なぜこの地域を特別扱いにするのか」という問いかけに対して具体的に答えていきたい。

  3. 神戸ポートアイランドにおけるエンタープライズゾーンの概要
    ─下村繁弘 神戸市産業振興局長
  4. 兵庫県と神戸市は、本格的な産業復興を推進するため、新たに「産業復興条例」「神戸起業ゾーン条例」を制定し、ポートアイランド(第2期)をエンタープライズゾーンとして指定した。条例では、ファッション、情報通信、国際化、集客、物流といった成長分野の事業を行なう企業の進出には、固定資産税・都市計画税の軽減を行ない、さらに県条例の要件に該当する場合は、不動産取得税の軽減、オフィス賃貸料などの補助、企業誘致促進融資などを行なう。また同ゾーンの核となる施設としてデジタル映像研究所などを整備する予定である。
    自治体が持てる政策手段を精一杯活用したつもりであり、実践する中で、国にもさらなる支援を求め、制度を充実させていきたい。

  5. 海外におけるゾーニングの事例
    ─中嶋邦弘 阪神・淡路産業復興推進機構専務理事
  6. エンタープライズゾーン構想を推進するにあたり、英国、米国を中心にゾーニングを活用した産業振興策を調査した。
    その共通点は、当該地域の直接的な責任に帰せられない事由で、経済的困難が生じた場合に行なわれているという点である。
    英国ロンドンのドッグランド地域で行なわれたエンタープライズゾーンでは、公的資金の約10倍を超える民間資金がこの地域で誘発されたと推定される。
    中央集権的な英国では、政府が強固な推進体制をとり、財源も用意したうえで、いくつかの地域を選定してゾーニング政策を進めている。一方連邦制をとる米国では、産業振興策は基本的には州などの地方政府の責任であり、自主財源で行なわれる。したがって各州が独自の法律により推進している。
    例えばヴァージニアでは、州内の希望するカウンティ(郡)にゾーンの指定を行ない、税の減免、規制緩和の特例等の優遇策を講じている。ゾーンの指定を受けるかどうかはカウンティに任されるが、指定を受けるカウンティは応分の負担を行なう必要がある。
    中央集権の日本の場合、英国の制度の方がなじみやすいと思われる。被災地は震災前には全国有数の担税地域であり、地域外にもたらす効果を考えても、国の制度としてエンタープライズゾーンの指定がなされるべきと考えられる。

  7. 質疑応答
  8. 経団連側:
    復旧状況90%というと驚く。
    その上にエンタープライズゾーンを設置すると、他の地域と比べて突出しないか。
    また民生とのバランスも悪くならないか。
    倉持部長:
    90%復興したということは、見方を変えれば10%もマイナスのままであるということである。ミクロの実態も厳しい。
    下村局長:
    民生の復興は区画整理、再開発が遅れがちのためかんばしくない。
    産業優先だとバランスを失する面はあるかもしれないが、事業者を市民が支え、その事業が雇用や生活の安定につながればよいと考えている。エリアも期間も限定した施策であり理解を得たい。

    経団連側:
    条例では「業」ではなく「分野」で絞っているが、なぜか。
    下村局長:
    新しい産業には従来の枠を超えたさまざまな展開が考えられる。例えば、原則として対象となっていない小売業の企業も分野に沿った事業展開、集客要素の導入などを図ってもらえれば制度の対象となる。

    経団連側:
    地元の構想におけるプロジェクトには研究所やコンベンション施設など箱物整備が多いという印象を持つが。
    倉持部長:
    箱物によるハードのインフラ整備とともに、エンタープライズゾーンのようなソフトの振興策が必要なのである。


くりっぷ No.51 目次日本語のホームページ