経団連くりっぷ No.51 (1997年 3月13日)

防衛生産委員会(座長 西岡防衛生産委員会総合部会長)/3月3日

オーガスティン ロッキード・マーチン会長兼CEOとの懇談会


冷戦後の防衛産業をとりまく状況は、日米欧とも大きく変化している。特に、米国の防衛産業では、防衛費の大幅な削減に直面し、競争力と資本・技術力を維持するための大規模な企業統合が進行している。この度、世界第2位の航空宇宙関連会社であるロッキード・マーチンのオーガスティン会長兼CEOがわが国関係業界等との交流のため来日した機会に、防衛生産委員会では同会長より米国防衛産業の再編の現状と今後の企業戦略について説明を聞いた。
以下が、その概要である。

  1. 深まる日本との関係
  2. ロッキード・マーチンと日本の関係は、1930年代に飛行機生産のライセンスを供与したことに始まる。最近では、当社は防衛庁にC130輸送機、P3C対潜哨戒機等を納めており、また、F2支援戦闘機の共同生産のパートナーにもなっている。また、民生分野でも最先端の電子機器,通信衛星、打ち上げ用のロケット等を日本に提供している。当社と日本の間にはこのように密接な関係があり、今後ともその関係は発展を続けると信じている。

  3. 米国航空機産業の再編
  4. 冷戦の終焉にともない、米国の航空機・防衛産業は歴史上例のない変革を経験することとなった。4年前、アスピン国防長官は米国の航空機関連企業の代表を招いた席で、今後5年間で既存の航空機関連企業の半数は国防省にとって不要となるであろうと述べた。その背景としては、米国の国防費の削減があり、実際、1980年代後半と比べ、現在の防衛費は3分の2となり、150万人の雇用が失われた。
    米国の航空機産業は、この無秩序に対応するため、急速な大型企業統合を行ない、この6年間で約20件の合併が行なわれた。現在のロッキード・マーチンは、17社の合併の結果であり、この間、約10万人の社員を減らし、20万人弱の規模となっている。
    米国政府もこの企業統合の動きを一貫して支援している。独占禁止法がこの企業統合の流れを妨げるであろうとの見方もあるが、企業統合は調達コストの削減を通じて納税者の利益に適うわけで、この見方には誇張がある。ロッキード・マーチンが行なった企業統合は、年間26億ドルもの連邦予算の節約に貢献した。

  5. 国際協力の必要性
  6. 米国の国防予算の削減に対処するため、われわれは外国のパートナーとの協力を通じ、海外市場に焦点をあてることが重要と考えている。一連の企業統合の結果、米国航空機産業の国際競争力は強化されてきた。また、兵器の高度化に伴い、その開発コストは高騰しており、この分野でも国際協力が必要とされている。ロッキード・マーチンは真の国際企業となることを目標としており、合弁企業等の設立を通じて、海外での雇用を拡大しつつある。
    ロッキード・マーチンの総売上高に占める海外ビジネスの割合は、5年前には約5%であったが、昨年は10%以上になった。当社は47カ国で6,000人を雇用し、約70のプログラムに取り組んでいる。多くの米国企業が国際的パートナーとしての日本企業に注目しているが、ロッキード・マーチンの将来にとっても日本は最重要の鍵である。

  7. 今後の航空機市場と企業戦略
  8. 当社は防衛以外の分野にも進出しており、インテリジェント輸送システム、宇宙通信、エネルギー・環境、航空管制、海洋の船舶管制、システムおよびソフト・ウェアのエンジニアリング等が有望である。例えば、防衛のシュミレーション技術を応用し、当社は日本のセガ社のために、3次元コンピューター・グラフィック技術を開発している。
    今後の航空機市場を展望すると、第1に、国際的な航空機市場は安定し緩やかながら成長を続けると予想される。過去10年間、防衛関連の売上は低下を続けているが、民間航空機と情報通信分野のビジネスの成長が、国際的な軍用航空機市場を下支えするであろう。
    第2に、航空機分野の企業間の国際協力がより一般的になると考えられる。民生技術は軍事技術と同様に進んでおり、政府が国際協力を規制しなければならない理由は減っている。また、汎用技術についての輸出規制もほとんどなくなっている。したがって、このような企業間の国際協力は一層拡大するであろう。そして、このような国際協力にあたっての取り決めは、当事国の安全保障と経済的繁栄にとり、互恵的な内容となりつつある。

  9. 冷戦後の航空機産業の使命
  10. ソ連の崩壊により国際的な緊張は緩んでいるが、極東地域には不安定要因がある。したがって、日米政府間の戦域ミサイル防衛(TMD)をめぐる検討は重要である。ストックホルム国際平和研究所の最近の報告によると、現在でも31の紛争が続いており、冷戦後も平和を維持するための課題に変化はない。
    国土防衛、国際的ビジネスの展開、先端技術の開発は複雑で困難な使命であるが、日米両国とその航空産業の将来は、このような使命にわれわれがどう応えられるかにかかっている。「幸運は勇気あるものに味方する」という言葉があるが、国際的な企業の連携や技術協力にわれわれの才能と資源を投入すべきである。
    このような努力によってダウンサイジングを乗り切れば、航空機産業は市場の要求と安全保障への貢献をバランスさせながら、生き残ると確信しているし、21世紀を楽観視している。そして、国際経済の発展と世界平和を維持する上で不可欠な製品を、今後とも供給し続けていきたい。


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