経団連くりっぷ No.52 (1997年 3月27日)

WTOスタディ・グループ(座長 櫻井 威氏)/3月5日

WTOにおける日本のイニシアチブ


WTOスタディ・グループでは、来年開催予定の第2回閣僚会議に向け今後の問題点を整理して行くために内外の有識者よりヒアリングを行なっている。
以下は、GATT事務局に勤務した経歴を持つ高瀬保東海大学教授による第1回WTO閣僚会議に対する評価と今後の日本の役割に関する説明要旨である。

  1. GATTより拘束力を増したWTO
  2. GATTは貿易交渉において実質的成果をあげることに重点を置き、ルールの統一や体制整備、情報公開等の努力が不十分であったが、WTO協定には、95年1月の発効時にWTOルールの拘束力が明示されたうえ、発効後も機構や手続などの制度導入が行なわれており、影響力のあるものになっている。
    このような拘束力の増したWTOルールに則った多国間国際交渉を能率的に活用しようとする動きが世界経済のグローバル化に伴い増加してきており、通商交渉は二国間交渉から多国間交渉の時代へとシフトしている。

  3. 論理的交渉能力が必要になる多国間交渉
  4. WTOは、全加盟国が拒否権を持ち、論理的裏づけを持った反対意見が受け入れられる公正な場である。日本はこれまで二国間交渉を重視してきたが、これは英語による論理的交渉能力が不足していたという要因がある。
    現在は、ASEANと南米の協力を得つつ先進国が重要事項の決定にイニシアチブを発揮しているが、日本は相変わらず米国の陰に隠れている。

  5. 世界に顔の見えない日本
  6. WTOの最高機関は閣僚会議である。ここで参加国の閣僚が自ら重要な貿易政策上の問題点を英語で討議し決定するが、昨年12月に開催された第1回WTO閣僚会議では、日本は閣僚が公用語を使わない唯一のWTO加盟国となった。他国と対等に議論を戦わせ、世界に向けて日本の立場を発表する能力を持った閣僚の不在、官製情報に依存し国際交渉の実状を伝えない日本のジャーナリズムなど、日本の通商交渉の根本的問題が浮き彫りになったのが第1回WTO閣僚会議であった。
    日本の通商能力向上には、政治家による官僚ポスト独占の是正、ジュネーブの出先交渉者への権限の委譲など日本国内の政治・官僚システムの改革が不可欠である。

  7. WTOを利用しない日本の民間企業
  8. 日本の大企業は、独自のルートで通商問題を解決するため、WTOの紛争解決機能を利用することが少ない。多国間交渉による問題解決は、多角的自由貿易の進展につながり、行く行くは日本企業の利益となって返ってくるはずである。日本企業には、企業の長期的戦略にWTOを取り込むことを考えていただきたい。
    今後は、問題解決の独自チャネルを持たない中小企業の声を日本政府に伝えて行くことも必要と考える。


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