経団連くりっぷ No.52 (1997年 3月27日)

アメリカ委員会(委員長 槇原 稔氏)/3月6日

相互不信の「漂流」から目標・政策の「共有」へ
−関係再構築に大きく踏み出した日米両国


栗山外務省顧問(前駐米大使)より、今後の日米関係のあり方について説明を聞くとともに、懇談した。当日は、同委員会内に設置されている「今後の日米協力を考える部会」(部会長:上原 隆氏)が取りまとめた日米関係に関する提言につき審議した。
以下は栗山外務省顧問の説明要旨である。

  1. 日米両国は、グローバル・エコノミーという荒海に、コンパスも海図もなしに漂流している2隻の大船である。何処に向かうのか分からず、衝突の危険もある。こうした事態に立ち至った背景には、
    1. 冷戦の終焉、
    2. 世界の多極化、
    3. グローバル化の進展
    がある。

  2. 96年4月、橋本・クリントン両首脳が「日米両国民へのメッセージ−21世紀への挑戦−」という共同宣言を発出した。
    これは、日米関係を現在の「漂流」状態から、新しいコンパスつまり共通の目標と、新しい海図すなわち共通の政策を持った関係へと転換させようという両国首脳の強い意志表明に他ならない。

  3. 多極化が進む中、経済力を背景にした日米の力関係に変化が生じた。この変化が急激に進行したため、両国は状況の変化にうまく適用できず、責任を相手に転嫁する動きが顕著になった。これが80年代の後半から、日米の経済関係が目立って緊張した理由である。米国では、スーパー301条による制裁などユニラテラリズムに頼ろうとする傾向が強まり、ジャパン・バッシング、日本異質論、日本脅威論などが一世を風靡した。
    一方日本は、国際的に評価と期待の高かった前川レポートを実質的に棚上げにし、国内の構造改革を十分に行なわず、経済大国として、自由貿易を守る責任を果たさなかった。そこで米国をはじめとする諸外国から日本の市場開放に対する要求が強まった。日本はこれを「外圧」と受け止め、消極的な対応しか示さなかった。これは米国を一層苛立たせるという悪循環を招いた。

  4. 90年代に入って、構造問題協議、包括経済協議と日米経済交渉が発展する過程で、両国間の相互不信感がさらに高まっていった。これを象徴するのが、数値目標をめぐる日米間の論争である。

  5. 日米が経済交渉を行なうに際して、日本は政治的現実を、米国は経済的現実をよく認識しておかなければならない。すなわち日本の黒字が膨大なままでは、結果と機会は同じ意味を持つ(政治的現実)。また、市場経済の下では、仮に経済交渉がうまくいっても、結果を保証することはできない(経済的現実)。日米が相互不信を乗り越えるために、この認識は必要不可欠だ。

  6. もっとも最近は、日米間の経済摩擦は沈静化している。これは日米双方が手付かずだった課題に取り組んだ成果である。米国は、5年間経済が好調で税収が増えたこともあり、財政赤字削減にかなり成功した。企業・産業の競争力も目立って回復しており、情報産業ほかで注目すべき力を発揮している。米国民は自信を取り戻しつつある。
    他方日本においても、円高への産業界の対応が急速に進み、規制緩和が行なわれ、製品輸入比率が向上した。日本の経常収支の黒字は目立って減少した。96年、日本の経常収支黒字は、GDP比で1.5%程度まで減少した。これは、かつて米国が要求し、日本が拒絶した数値目標を満たす成果である。

  7. 日米両国が取り組むべき課題の第1は、共通の目標を持つことである。かつて日米には「世界の自由貿易体制の維持」という共通の必要性と目標があった。
    ところが現在では、これがいまだに日米の共通目標かどうか議論の対象になっている。自由貿易でも保護貿易でも国益になればよいという考え方が世界的に強まっているが、こういう考えは、重商主義に陥りやすく危険である。

  8. 日米は世界の2大市場経済である。今後10〜20年の間、この状況は変わらないだろう。グローバリゼーションを健全に発展させるカギは「競争」と「協力(相互依存)」の両立であるとの認識の下、日米が果たすべき役割は、世界経済の秩序・ルールづくりに積極的に関与することである。ルールがないままグローバル化が進むと、弱肉強食の競争となり、摩擦、利害対立が激化し、世界経済の健全な発展が阻害される。

  9. これからの国際経済システムは、当分の間、3重構造にならざるを得ないと思う。3重の同心円があり、中心は市場経済と自由貿易。円の1番外側は、WTOに基づくグローバルなシステムで、その内側の円は、リージョナルな枠組みである。WTOへの支援はもちろんのこと、日米はAPECを通ずるアジア太平洋地域のルールづくりの面で、イニシアチブを発揮しなければならない。WTOには128カ国のメンバーがおり、経済の発展段階等の差を考慮すると、単一のルールで全加盟国を管理するのは難しい。これを補うリージョナリズムが必要である。ただし、ブロック化を招かないオープン・リージョナリズムが大原則だ。日米は、APECのルールをいかにしてグローバルなルールに結び付けるかを考えねばならない。しかし、APECメンバーにも多様性があり、APECルールだけで日米の相互依存関係がうまく育っていくとは思えないので、日米間のルールづくりも大切である。

  10. 日米経済は、21世紀に向けConverge(収斂)しなければならない。それは日米経済がまったく同じになるということではなく、両国がそれぞれ相手に接近して、双方のよい面を取り入れ、似通った経済になることを意味する。

  11. 日米が競争と協力(相互依存)を両立させていく上で、「コモン・アジェンダ」は重要である。これは環境、エネルギー、新技術等26分野を網羅する日米協力の大きな柱であるが、両国政府間だけの課題とするのではなく、民間、NGO、さらには欧州、アジアの参加も得て、すそ野を広げていくことが肝要である。


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