経団連くりっぷ No.52 (1997年 3月27日)

流通委員会企画部会(部会長 丹羽宇一郎氏)/3月11日

企業における電子商取引の取り組みについてのヒアリング


流通委員会企画部会では、電子商取引(以下EC)の普及・推進のために必要な環境整備について検討を進めるにあたって、各企業におけるECへの取り組みの現状と今後の課題についてヒアリングを行なっている。その一環として、東洋紡システムクリエートの中浦眞一常務取締役から繊維業界におけるQRの現状について、そして、富士通の酒井紘昭常務取締役から富士通のECへの取り組みについて聞いた。以下はその概要である。

  1. 東洋紡システムクリエート 中浦常務説明要旨
    1. QRの始まり
    2. QR(Quick Response)とは繊維業界において「情報ネットワーク化を軸にして流通業とメーカーがパートナーシップを確立し、これにより原料から最終製品にいたるリードタイムの短縮と在庫の削減、商品企画と素材企画の連動を図り、価格の引き下げと収益の向上、そして国内生産拠点の維持を図ろうとする構造改革の試み」である。これは85年頃の米国で、糸の生産から服が小売の店頭に並ぶまでの流通を改革して無駄を省くための運動として始まった。QRの導入で32%のコスト削減ができた実例もある。

    3. QRの実際
    4. 米国では、商品コードやEDIの標準化と普及から始まり、POSデータと予測データの共有、メーカーと小売店による共同商品開発等を経て、全社的な業務プロセスの改革とシステム統合が図られている。
      一方、日本では、94年に通産省の主導によってQR推進協議会が設立され、本格的なQR基盤整備が図られることになった。具体的には、JANコード等の普及やEDIの標準化推進、テキスタイル・アパレル・リンケージの促進、POS情報分析システムの開発等が行なわれている。アパレルと小売間に比べて取り組みが遅れてきたテキスタイル業界であるが、化繊協会では、95年に情報化推進委員会を開設し、テキスタイル・アパレル間のEDI標準の作成などを行なっている。また、繊維業界は中小企業が多いため、システム化が遅れている中小企業でも低コストでQRを導入できるよう、汎用性のあるパッケージソフトを開発中である(TIIP:Textile Industry Innovation Program)。

    5. QR推進の課題
    6. 米国と比較して、日本でQRが困難である理由は、
      1. 流通構造が複雑で、テキスタイルメーカーとアパレルの間に商社や問屋が介在し、直取引が少ないこと、
      2. 生産構造が複雑で一貫生産が少ないこと、
      3. 生地受発注の内容やそのリスク負担があいまいであること
      等が挙げられる。これからの課題としては、EDIだけでなく業務内容も対象にした標準化が必要である。また、標準EDIの拡大や取引業務の標準化に関しても、大手企業間での実証の推進とTIIPなどの標準パッケージソフトの普及が不可欠である。

    7. QRの今後
    8. QR基盤整備は97年度に一応完了する。大手小売と有力アパレルの間のQRはかなり進展してきている。今後はアパレルとテキスタイルメーカーの間のQRが進んでくるだろう。徐々に繊維業界でも流通構造が変革され、取引の近代化が進むことが期待される。

    9. 質疑応答
    10. 問:
      旧来の商慣行等によってQRの実施が妨げられることはあるか。
      答:
      QR推進の際に、これが一番の問題となる。EDIによって効率的に納入されたとしても、返品されてはその効果はなくなる。例えば口約束による取引はEDIとなじまないものだが、EDI取引が主流になれば、いずれ不透明な商慣行は廃れるのではないか。

  2. 富士通酒井常務説明要旨
  3. 大競争時代での国際競争力強化のために、企業内ならびに企業間のBPR(Business Process Re-engineering)によるコストやスピード競争力強化、グローバル化への対応、品質の向上が求められている。

    1. 富士通のECやBPRの取り組み
    2. 富士通の提案するECソリューションには、対消費者(CtoB)システム、企業内システム、企業間(BtoB)取引システム等の革新が含まれる。これらのシステムを支える制度的インフラとしては、個人や企業の認証制度、ECを前提とした決済制度や物流システムの構築がある。電子決済制度については、現在SECE(Secure Electronic Commerce Environment)を富士通・日立製作所・日本電気で共同開発しているが、現状、宅配業者による代金引替が多用されている。
      富士通では、業務の効率化、リードタイムの短縮、ジャスト・イン・タイムの推進を目的として、3,000社を超える調達企業の参加を得て、資材購買EDIを実施している。86年にパイロット方式で開始して以来、着実に進み、今年2月現在で、全取引量の82%がEDIによるものとなり、将来的には100%を目指している。平均リードタイムも半日を切った。また、従来は営業担当者のみが専有していた顧客情報や営業拡販情報などもできるだけ共有するために、ペーパーレス化を強力に推進し、データベース化している。電子的な社内決済制度の導入や帳票の標準化・削減を通じて、海外部門や関連子会社含めて全社で1,600人いた人事・総務部門の人員を1,000人にまで減らした。97年度中にさらに700人にまで減らす予定である。

    3. EC展開の課題
    4. 制度面では、各種法制度の改正、ECのリスク負担ルールの確立と保険制度、ディスクロージャーとプライバシーの問題がある。商流に関しては、ソフトウェアのネット上の取引に関して関税や著作権の問題の取り扱いが不明確である。その他の課題としては、既存の流通チャネルとの使い分けや住み分けが必要であろうし、個配物流等のECを支える新たな物流対応が必要となってこよう。

    5. 意見交換
    6. 問:
      EC普及の今後の見通しは?
      答:
      対消費者ECに関しては、どのような利便を提供できるかが課題であり、既存チャネルとの競合が問題となる。一方、企業間のECについては、事業活動そのものの効率化に関わることであり、どんどん発展するだろう。ただ、法整備が不十分であることがECの効果を半減している。米国では大統領の諮問機関でECに関するガイドラインの中間報告が発表されており、取り組みが着実に進んでいる。われわれも、各省庁で行なっている実証実験を通して技術的課題や必要な規制緩和をあぶりだしていきたい。


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