経団連くりっぷ No.53 (1997年 4月10日)

なびげーたー

農業・農村・食糧問題について本格的検討

産業本部副本部長 永松恵一


「農業従事者の自由な意志と創意工夫を尊重しつつ、農業の近代化と合理化を図って、農業従事者が他の国民各層と均衡する健康で文化的な生活を営む」

  1. 上の文章は、1961年に制定された農業基本法の前文の一部である。
    いよいよ農業基本法の本格的な見直しの 検討作業が政府でも始まる。基本法自体は優れた理念、目標を掲げているが、現実の農業は、日本経済が直面している高齢化、国際化、高負担という3K問題への対応に苦慮し、事態は悪化している。

  2. 高齢化は空洞化問題とも密接に関連している。65歳以上の高齢者農業就業者割合は40%を占め、15〜29歳の青年層は5%にすぎない。しかも、離職就農者数が増加しているとはいえ、新規学卒農家子弟の農業 就業率は1%台である。耕地面積が500万haに減少する中で、耕作放棄地が24万haを超える一方、減反政策により70万ha弱の田が生産調整の対象とされている。農地の集約化、規模拡大が徐々にではあるが進展し、また、ほ場整備事業も担い手育成の観点から大規模中心に進められているが、一律的な減反政策は、投資効率を低化させるだけでなく、農業者の意欲を著しく阻害している。生活環境の改善を含め、魅力ある職 業としての農業の確立が急がれる。

  3. 国際化の波は農業にも押し寄せており、株式会社制度の本格的活用を含め、産業としての農業、国際競争に耐えうる農業の育成に政策を集中する必要がある。とりわけ基幹的作物である米については、2000年にミニマム・アクセス(消費量の4〜8%)の特例措置が期限切れとなる。また、食料加工品の関税率引き下げと国内農産物の価格支持制度等により、国内農業の重要なユ−ザーである食品産業は厳しい局面を迎えており、制度の抜本改革が必要である。
    なお、食糧自給率は42%にまで低下しているが、飽食家の日本人の胃袋を満たすため海外に1200万haの土地を確保してあると理解したい。食糧安保は、輸入力との関連、自給力の観点から論ぜられるべきである。

  4. 高負担問題については、6兆100億円にのぼるUR対策費をめぐる議論を契機に、国民の大きな関心事となっている。農業総生産は7兆6,000億円、GDPの1.6%にすぎないのに対し、国の一般会計の3.5%、2兆6,000億円の予算が投入され、さらに価格支持等により国民負担は増大している。農家総所得は、勤労者世帯収入より3割ほど高いのにである。競争力のある農業育成のため、予算の徹底した重点化が必要である。
    一方では環境保全の議論もあり、基本法を巡る議論は多岐にわたる。経団連でもすでに検討に着手しており、今夏には意見をまとめる予定である。

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