経団連くりっぷ No.53 (1997年 4月10日)

貿易投資委員会(委員長 北岡 隆氏)/3月21日

転換期を迎えた貿易システム


貿易投資委員会では、レナト・ルジェロWTO(世界貿易機関)事務局長を招き、WTOのこれまでの成果と今後の課題等について説明を聞くとともに意見交換を行なった。


北岡委員長

  1. ルジェロ事務局長説明要旨
    1. WTOのこれまでの成果
    2. WTOは、これまでに以下の4つの成果を生み出した。
      第1の成果は、WTO紛争解決手続への信頼性を高めたことである。WTOの紛争解決手続に提起された案件は、1995年1月のWTO発足以来わずか18カ月間で71件に上った(内19件がすでに和解)。他方、GATT時代は全期間で120件あったにすぎない。これは加盟国がルールによる紛争解決を重視するようになったことを意味する。
      第2の成果は、昨年12月にシンガポールで開催された第1回WTO閣僚会議の成功である。同会議の目的は、WTO体制のレビューならびに貿易をめぐる「新たな課題」について話し合うことであったが、会議期間中にすべての問題を解釈することができた。さらに、
      1. 労働基準に関する問題はILOを主管とすること、
      2. 投資、政府調達、競争に関する各作業部会を設置すること
      等の具体的成果を導き出すことができた。
      第3の成果は、ITA(情報技術協定)の交渉を3月26日に正式に完了したことである。同協定参加国の情報技術製品取引額は、世界貿易の90%を占め、今後の世界の情報技術分野の発展に大きく資するものである。
      第4の成果は、基本電気通信の自由化交渉が成功裡に終了したことである。通信分野は21世紀を担う主要な産業であり、情報技術関連製品の貿易額は約5,000億ドルに上り、農業貿易の総額に匹敵する。その意味でITA締結と基本電気通信交渉の終結は、新しいラウンドの完了と等しい効果を持つということができる。

    3. WTOをめぐる最近の好ましい傾向
    4. この他、最近、WTOのさらなる発展に向けた好ましい傾向が見られる。第1に、第1回WTO閣僚会議において、地域統合も自由化の促進に有益な面もあるが、あくまでも多角的自由貿易体制の枠組みが優先されるという点を加盟国が確認した事があげられる。第2に、部門別交渉がポジティブな成果を達成しうることを示したことである。第3に、発展途上国が積極的にITAなどの協定や合意に参加し、より大きな役割を果たすようになっていることである。以上のことから、世界の貿易システムは転換期を迎えており、1997年は多角的自由貿易体制のさらなる発展に向けた出発点と言うことができる。

    5. 今後の予定
    6. 4月10日に、金融サービス交渉が再開されるのを皮切りに、4月末には、投資、政府調達、競争政策に関する各作業部会の委員長が任命される。年内には、後発開発途上国支援閣僚会議も開催される。また、WTO加盟申請国との交渉も大きな前進を遂げるであろう。
      今後の活動の中でも特に重要なものは、1998年の多角的自由貿易体制50周年記念事業ならびに第2回閣僚会議に向けた準備である。特に、50周年記念事業は、過去の多角的貿易体制の成功を示すとともに、グローバリズムの重要性をすべての国の国民に訴える上でも重要である。グローバル化は、雇用や福祉国家に対する脅威との見方もあるが、こうした考えを正し、グローバル化が将来にいかに大きな機会をもたらすかを示す必要がある。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    中国のWTO加盟についてどのように考えているか。
    ルジェロWTO事務局長:
    3月に加盟交渉を行なったが、今や中国の加盟交渉は最終段階に近づいている。今後、中国が取り組まなければならない課題はいくつもあるが、交渉はポジティブに行なわれていくであろう。

    経団連側:
    WTOと産業界の関係をどのように考えているか。
    ルジェロWTO事務局長:
    産業界だけでなく環境や労働等の分野の団体も含め、WTOはNGOとの関係を強化していかなければならない。しかし、現在の事務局体制は人と資金が限られており、NGOとの関係強化までなかなか手がまわらない。1998年の多角的自由貿易体制50周年記念事業は、産業界との関係を強化する良い機会と捉えている。

    経団連側:
    紛争解決手続へのNGOの参加についてはどのように考えるか。
    ルジェロWTO事務局長:
    WTOのカウンターパートはあくまでも各国の政府代表である。紛争解決手続を効率化する上で、カウンターパートは政府に絞った方がよい。ただし、投資の問題などについては、OECDの経験も考慮の対象となろう。

    経団連側:
    地域貿易協定の取り扱いについてレビューを行なう予定はあるか?
    ルジェロWTO事務局長:
    第1回WTO閣僚会議で設置が決定された「地域貿易協定に関する委員会」においてレビューを行なっていく。具体的には、関税同盟ならびに自由貿易地域の設定に関するGATT第24条の解釈が焦点となる。

    経団連側:
    OECDにおけるMAI(多国間投資協定)の交渉、地域協定レベルの投資ルール作成に向けた動きは、WTOの投資作業部会の運営にどのように影響するか。
    ルジェロWTO事務局長:
    OECDが先進国間のレベルの高い投資ルールを作成する事は意義がある。しかし、先進国、および途上国すべての真の関心事項は、投資に関する全世界的なルールを作ることである。国際ルールの確立によりさまざまな投資ルール間の整合性も実現しよう。


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