経団連くりっぷ No.54 (1997年 4月24日)

地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/4月7日

新しい全総計画と地域産業政策・産業立地政策の方向


政府の産業構造審議会産業立地部会では、内外の経済社会環境の変化を踏まえた今後の地域産業政策のあり方を検討し、「特定産業集積の活性化に関する臨時措置法」を国会に上程したほか、部会報告を5月末にもとりまとめる予定である。新しい全総計画においてもこれらを踏まえた産業政策を盛り込むことが見込まれる。そこで地方振興部会では通産省の地域政策関係者から、新しい全総計画に対する通産省の考え方などを聞いた。
以下は岡田立地政策課長、武田立地指導室長、谷産業施設課総括班長との懇談の概要である。

  1. 通産省側説明要旨
    1. 産業立地政策の基本方向と具体的施策
    2. 近年、為替レートとは無関係に、生産拠点の海外移転が進展しているが、産業の集積を活かした研究開発など付加価値の高いものは国内に止まる傾向にある。政府は、こうした傾向を踏まえ、産業の活性化を図る観点から集積のメリットを活かすとともに、規制、税制、慣行など、日本の事業環境の是正すべき点は是正していく。強みを伸ばし、弱みを是正していくのが今日の政策課題である。

      従来わが国の基幹産業を支えてきた部品、金型、試作品等を製造する「ものづくりの基盤となる地域の産業集積」や「産地、企業城下町といった産業集積」において技術の高度化や新分野への進出等を促進することにより、産業集積の活性化を行なうことを趣旨として、「特定産業集積の活性化に関する臨時措置法」を今国会に上程した。これにより自治体等への産業インフラ整備・支援事業の補助、事業者・商工組合等への研究開発費補助、低利融資・税制上の優遇措置等を行なう。

      また、大都市臨海部等の産業空洞化の是正と工業再配置を推進するために、臨海部再開発に向けた跡地活用策の検討や、工場立地法や工業(場)等制限法の見直しなどを行なうこととしている。

    3. 新しい全総計画と地域産業政策
      1. 通産省の考え方

        現在は「企業が国を選ぶ時代」であり、国内の高コスト構造等を背景に、産業や雇用の空洞化はさらに進展するおそれがある。現状を放置すれば、今後5年間で産業の空洞化により約120万人の雇用が減少すると見込まれる。国土審議会計画部会の『調査検討報告』には、産業の現状認識に若干、厳しさが欠けており、現在、国土庁と議論している。国際的な立地競争力を強化するために、政府は地域の産業集積の維持・発展を図るほか、高コスト構造是正のための抜本的な規制緩和、経済構造改革に資する社会資本の整備等を進める。また、国土の均衡ある発展を図るため、工業再配置政策を推進するとともに技術力強化を基軸とした地方振興の推進、地域のベンチャー企業の振興、高度情報化、国際化の推進、地域商業振興を進める。さらに、公共投資の重点化、効率化を進めるため、民間の知恵を借りながら、分野の絞り込み、運用の改善、コスト縮減などを行ないたい。

        全総計画で課題となっている苫小牧東部、むつ小川原の大規模工業基地については、計画当初の重化学工業基地としての産業立地は困難となっている。苫東は臨海臨空中核都市圏という特性を活かした国際流通拠点、研究開発型の基地として、またむつは、エネルギー、環境関連施設などを中心とする基地として、いずれも多角的な展開を図ろうとしているが、いくら新しい構想を描いても、むつの未分譲地約1700ha、苫東の未分譲地約4700haを現実に分譲していくことは大変であり、民間、関係省庁と協力して地道な努力をしていきたい。

      2. 他の省庁との連携、地方分権の推進

        省庁間の縦割りについては国民に迷惑をかけないよう努めている。産業集積活性化対策においても建設省と公共投資政策で、労働省と雇用・能力開発政策で、文部省と産学連携で協力し合っている。

        地方分権との関係では、地方分権推進委員会第1次勧告では、新産業都市建設計画、工業整備特別地域整備基本計画等の地域計画の策定に係る事務を自治事務とするなどとされ、分権化が推進されることとなった。

      3. エンタープライズゾーン等

        エンタープライズゾーン等は、特定地域における振興策をどう実現していくかという問題である。技術的には、例えば税制、規制を他の地域と分けて扱うことができるか等、政治的、政策的には、国際的な約定との整合性をとりつつ、他地域より優遇することの必要性についての国民のコンセンサスの確保等の問題を克服する必要がある。

        外資系企業の工場立地については、89年の31件をピークに下がり続け、昨年は過去15年間で最低の6件の立地しかなかった。理由は日本市場の先行きが不透明であったこと、企業誘致のスタンスとして内外企業を無差別に扱うのかどうかが不明であったこと、などがあげられる。これからの金融改革、外為法の改正などを経てスタンスは固まるであろう。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    特定産業集積の活性化策や大都市圏臨海部等の産業活性化対策などを打ち出すことにより、地域産業振興、工業再配置といった政策が薄れていく印象がある。
    通産省:
    以下の3つの視点から対策を講じている。
    1. 地方が自立するために産業立地は不可欠であり、政府は支援する。
    2. 日本経済を支える産業集積は、地域に関わりなく維持・発展を図る。
    3. 大都市圏の産業空洞化については工場跡地の活用、除外業種の拡大等を行ない、フレキシブルに対応する。

    経団連側:
    産業集積の今後の展望はどうか。
    通産省:
    ベンチャー企業の育成のモデル地域とされるシリコンバレーは、後背地に小さな町工場が集積したサンノゼを控え、シリコンバレーで考えられたコンセプトを即座に試作できる環境にあった。試作を元に試行錯誤を重ねることにより、新しいコンセプトは創り出される。


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