経団連くりっぷ No.54 (1997年 4月24日)

経済法規委員会製造物責任問題検討部会(部会長 宮部義一氏)/3月28日

PL法施行後の状況と今後の課題


経団連は、製造物責任法(PL法)の制定は事業活動に大きな影響を与えるとの認識の下、その立法過程から、産業界の意見を反映させるべく努力してきた。PL法が施行されてから1年半以上経過したことを踏まえ、その間の状況と今後の課題について、通産省産業政策局太田房江消費経済課長より説明を聴くとともに、主要業界の取り組みの状況について意見交換を行なった。以下は、その概要である。

  1. 通産省太田消費経済課長説明要旨
    1. 裁判外紛争処理機関(ADR)の活動
    2. 平成7年7月に製造物責任法(PL法)が施行されて以来、通産省所管の6つのPLセンターの苦情相談の状況を概観すると、PL法施行前後の問い合わせが一時的に多かったことを除けば、製品事故に関する相談件数は計277件(4.1%)で、前年と概ね同水準である。苦情相談等の処理状況については、全体の約9割がセンター員の説明により納得しており、センターが取り次いだ相対交渉によって合意に至ったものが573件(8.4%)、斡旋による合意が5件(0.1%)、調停による合意が1件(0.0%)となっている。
      このような状況から、総じて冷静な受け止め方であるとの印象を受けている。当初、危惧されていた濫訴は起こっていないが、ADRの本来的な役割である斡旋や調停によって合意した案件が出始めた。経済企画庁の調査によると、全国の消費者センターに寄せられた製品事故に関する相談件数が、平成6年度から7年度にかけて倍増していることからも、消費者の製品安全に対する関心が高まっていることは事実であろう。その意味でも、PL法が施行された意味は大きかったと言えよう。

    3. PL法施行後の業界の対応
    4. 各業界団体ごとにPL法施行後の製品安全に対する認識の高まりはあるが、独自の対外的な情報提供を行なっている団体は全体の3割弱であり、PL法施行前に比べ、若干増えた程度である。

    5. PL法施行後の通産省の対応
    6. 通産省は、従来、製品事故事例の公表の際には、会社名や型式名を明らかにしていなかった。製品事故は、消費者の誤使用や思い込みによるものが多く、企業の任意の協力によって原因究明してきたこともあり、このような情報は公開しない方が、企業による再発防止に役立つのではないかと考えてきたからである。
      しかし、「今の情報提供の程度では、製品事故を起こした製品が自分で使用している製品と同じ物であるかどうか確認できない」という消費者の指摘ももっともであり、現在、消費者にも役立ち、同時に企業にも受け入れられる情報提供のあり方について見直し、情報提供についての姿勢を改め始めたところである。
      例えば、消費生活用製品安全法における危害防止命令に係る製品情報を公表している。万が一製品事故があった場合、製品回収社告を出さなければならないが、中小企業が、自社で出すのはなかなか困難だ。むしろ、通産省から命令を出し、その情報を公開することによって回収の実効を上げてほしいというニーズもある。
      通産省としては、情報公開、規制緩和、自己責任の流れから、適宜、情報提供し、製品選択や製品の改善に役立ててもらおうと考えている。被害者救済についても、PL法により自己責任の原則が貫かれることを期待している。再改定された規制緩和推進計画で、「事前規制から事後の措置へ」という言葉があったが、製品安全についても同様に、発想を変える必要がある。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    PL法の施行後、企業は従前以上に商品の安全性について配慮し、詳細な検討をしているのに対し、消費者の方で取り扱い説明書をきちんと読んでいなかったりするために、事故が起こる場合が多いのではないか。

    太田課長:
    取り扱い説明書の内容は、どんどん充実しているのに、消費者がきちんと目を通していない、ということは言えよう。誤使用や不注意による事故が、通報された製品事故全体の3分の1を占めており、このウエイトは余りに高い。なぜ、こんなに誤使用が多いのか、人間工学的見地からの工夫が必要かもしれない。また、さまざまな法律の規制によって、読みづらいところに製品の各種表示を貼らざるを得ないような状況もあるようだ。これについては適切に対応したい。
    賢い消費者づくりのための啓発活動も、今年あたりから積極的に取り組みたい。

  4. 各業界の取り組み状況
    1. 電機
    2. 家電については今のところ事故事例はないが、PLセンターを中心に準備は怠っていない。PLセンターの役割については、行政による広報も期待したい。消費者への情報提供も、例えば、取り扱い説明書にどこまで細かく注意を書くべきかの判断が難しい。一定レベルの常識や注意能力を持った消費者を想定せざるを得ない。

    3. 自動車
    4. 自動車は元々拡大損害が発生しやすい。誤使用も多く、相談センターの認知度は上がっている。公正・中立な立場で活動していることを示すためにも、ADRそのものの報告も考えている。製品の使用方法や安全のための表示もどこまで書けば十分なのか。事故が実際に起こってからは、取り扱い説明書の内容についての批判が多くなる。消費者団体の方から、あるべき取り扱い説明書について提案してもらえれば有効である。実際の訴訟に至った場合でも、原告側が十分に情報提供をしてくれないために、無用に裁判が長期化することもあり、何らかの対応が必要である。

    5. 薬品
    6. 医薬品に関しては、PL法施行以前から、さまざまな副作用の問題が起きており、医薬品副作用被害救済制度等を通じて、業界をあげて真剣に取り組んできている。また、各都道府県薬剤師会に苦情相談窓口を設けている。

    7. 化学品
    8. 組成表を業界団体に提出し、消費者窓口を統一し、その後必要に応じて個別対応している。半年に一度、相談事例などを非常に詳細に公表している。PL法施行後は消費者からの問い合せが、男性からのものを中心に5割増えた。


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