経団連くりっぷ No.54 (1997年 4月24日)

流通委員会企画部会(部会長 丹羽宇一郎氏)/3月28日

流通業界における電子商取引の取り組みについてのヒアリング


流通委員会企画部会では、電子商取引(以下EC)の普及・推進のために必要な環境整備について検討を進めている。その一環として、今回の企画部会では、ダイエー情報システムの大高正彦統括マネージャーと伊勢丹の行本公二商品政策担当部長から流通業界におけるECの取り組みの現状と今後の課題について聞いた。以下はその概要である。

  1. ダイエー 情報システム大高統括マネージャー説明要旨
    1. ビジネスプロトコルの標準化の普及に伴う流通EDIの進展と新しい取り組み
    2. 流通業に関しては、流通システム開発センターや通産省を中心に、EDIメッセージの標準化や各種実証実験が行なわれてきた。
      通産省は、流通業における商取引やEDIの標準化に取り組んできた。標準化にあたっては、日本国内標準としてCIIシンタックスルールがあるが、将来の国際化を見据えて、国際標準であるUN−EDIFACTを採用している。漢字のコード化の問題については、漢字圏諸国が集まったAsia EDIFACT Boardで、技術的解決が図られた。日本の商慣行に合わせたローカルメッセージも使用可能である。
      最近の取り組みでは、流通システム開発センターによるOBN(Open Business Network)構想が注目されている。OBNはユーザー主導で仕様が作られ、安全性の高いネットワークサポートを提供することを目的にしており、すでに1社がサービスを開始している。OBNはネットワークの仕様をオープンにしており、サービスキャリアの参入制限はしていない。出来るだけ多くのキャリアが参入することで、競争が促進され、ユーザーにとってのメリットが増すことを期待している。OBNでは、同一ネットワーク上で企業内クローズドユースと企業間EDIを実現することができる。

    3. EC推進事業
    4. 通産省を中心に、数多くのプロジェクトが組まれている。流通関係プロジェクトの中では、文具に関するEDI高度化プロジェクトで、2次元コードの開発というユニークな取り組みをしている。2次元コードとは5〜6ミリ四方のマスの中に、マトリクスで2,000桁以上の情報が入るというものである。文具は商品サイクルが短く、常時100万種以上という膨大な品数の商品を扱っていることから、この2次元コードを商品カタログに印刷することによって、データベースの代わりに紙のカタログをROMのように利用することを狙っている。

    5. ダイエーグループの取り組み
    6. ダイエーグループとしては、新世代通信網利用高度化協会でのFTTH(Fiber To The Home)実験、厚生省児童関連情報24時間ネットワーク(チャイルドネット)、NTTマルチメディア共同利用実験、通産省TIIP(Textile Industry Innovation Program)事業プロジェクト、電子商取引における認証/暗号/決済の方式開発と実用性の実験、郵政省郵便貯金ICカード実証実験、EC商品画像情報システム推進協議会など、さまざまな実証実験に参加している。

    7. 質疑応答
    8. 問:
      EDIFACTが日本で本格的に導入されるにあたって、ユーザー企業はどういう準備が必要か?
      答:
      日本国内標準のCIIシンタックスルールとEDIFACTとの間の変換は技術的に可能であり、トランスレーターも開発されているので、個々の企業においては、特別な準備は必要ではない。

      問:
      各種実証実験がさまざまな省庁で行なわれているが、それについての意見は?
      答:
      各省庁が行なう実証実験を、その場限りで終わらせてはならない。例えば、大宮で行なわれる郵便貯金のICカード実験では、実験終了後や実験地域以外の郵便局のATMでも使えるように、磁気ストライプとICチップのハイブリッド型カードを発行する予定だ。税金を使って行なう実験なのだから、有効に使われるよう、われわれも積極的に意見を言っていくべきだ。

  2. 伊勢丹行本MD担当部長説明要旨
    1. 商品情報システム開発の経過
    2. 89年から93年にかけての伊勢丹の中期経営6ヵ年計画の後半年度の重要テーマとして「MD(マーチャンダイジング)業務改革」が位置づけられた。伊勢丹では、他社に比べて遅れていたMD業務の基盤整備を92年以来行なっている。MDシステムも当初はうまく行かなかったが、その後改良を重ね、96年8月から現在の新MD-IIIが導入されている。

    3. 新MD-IIIの特徴
    4. 値札や納品伝票は百貨店共通の規格を利用している。単品コードについては、JAN、UPC、EANのどのコードも使える。MDの重要な要素である単品マスターの管理が最も困難である。現在は、取引先企業に入力してもらったそれぞれの商品の単品マスターを、フロッピーディスクで管理している。
      EOS(Electronic Ordering System)も新規開店や改装を機に導入し始めており、POSの売り上げ情報も何社かに提供している。ASN/SCM(Advance Shipping Notice/Shipping Container Marking)と呼ばれる出荷前通知と出荷コンテナ識別のための情報システムによって、検品作業等がかなり効率化されるが、導入しているのは、まだ、婦人肌着の2社だけである。この2社との取引に関しては、納品ミスがほとんどなくなった上に、商品受け取りから売り場に流すまでの業務フローの負荷が従来の20分の1になった。効率化のために、来年中のいずれかの時点で、ASN/SCMを導入するよう、取引先に呼びかけたい。

    5. 新MD-IIIの売り場導入状況
    6. 伊勢丹新宿店に106ある売り場のうち、買取り品中心の57の売り場と、商品納入業者との連携が非常にうまくいっている大きいサイズの婦人服と、商品数が多く、高い導入効果が期待できる婦人靴等に新MD-IIIを導入した。
      新MD-IIIを導入した婦人靴売り場では、2桁以上の売り上げの伸びを示した。元々かなりの売上高規模の売り場であったところが、これほど伸びた例はない。ASN/SCMを導入している婦人肌着の売り上げも、恐らく2桁の伸びは記録しているだろう。売り上げが伸びた一番の要因は、毎週日曜日に行なわれる翌週の商品発注にあたって、伊勢丹社員と商品供給元からの派遣社員が単品毎に管理されている売り上げと在庫情報を見て発注しているからであろう。


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