アメリカ委員会(委員長 槙原 稔氏)/4月4日
コンピューター業界の歴史を見ると、1960年には15社程しかこの業界には存在せず、その中でIBMが業界をコントロールしていた。その後IBMは、60年代半ばに「システム360」という、初のモジュール型コンピューターを導入した。これによりIBMの価値は飛躍的に増したが、同時に新たな分野の企業が市場に参入するようになった。するとIBMの競合相手が多数できてしまい、次第にIBMの価値が他の企業にも移っていく結果となった。1995年の段階では何千もの企業がこの業界に参入し、業界内での価値が分散されている。現在、他の企業と比べてより大きな力を持っている企業の代表例はマイクロ・ソフトである。それは基本的なOSをコントロールしているからである。これに対抗する動きとして、サン・マイクロシステムズは「Java」という新しいソフトウェア言語を生み出した。このようにモジュラリティーの導入は、コンピューター業界の競合関係を大幅に変えた。またマイクロ・ソフトが多数のソフトウェア・ディベロッパーとの間にネットワークを築いているように、企業のネットワーク化が進んでいる。
こうした中、コンピューター業界では、ある特定の形のリーダーシップ、すなわち高度な技能を持ち、厳しい競争かつダイナミックな環境の中で効率的に機会を捉え、新たな能力を開発し、企業を変えていくリーダーシップが重視されている。私は、今後世界経済はコンピューター業界のようになっていくだろうと考えている。今までとは違った「企業家型リーダーシップ」が必要となる。これは現在管理されている資源を超えた機会を追求する、機会志向型のリーダーシップである。競争するための資源は決してすべて社内にある訳ではなく、社外にでていかに早くこれを導入し、活用するかが重要である。また企業家型リーダーシップの原則を適用することは、新たな企業をおこす場合のみならず、すでに存在している企業のリストラクチャリング、リエンジニアリングを行なう場合にも重要な意味を持っている。
ハーバード・ビジネス・スクールでは、企業家型リーダシップに富んだ人材を育てること、情報技術に精通したリーダーを育てること、ビジネスのグローバル化を十分に認識すること、および生涯教育の重要性を念頭において研究、教育を行なっている。
グローバル経済では大きな変化が起きており、業界の構造が変わり、厳しい競争が行なわれている。こうした中、機会を捉えて迅速に行動し、新たな価値を見出す、企業家精神に富んだリーダーシップが求められている。今後これを備えたリーダーは貴重な存在となるであろう。ハーバード・ビジネス・スクールでは、このようなリーダーシップを教育していきたいと考えている。