経団連くりっぷ No.55 (1997年 5月 8日)

経団連意見/4月15日

政府開発援助(ODA)の改革を求める


国際協力委員会(委員長:熊谷副会長)では、昨年12月より、限られた資金の中で、効率的、効果的にODAを実施し、途上国からの評価を高めていくための方策について検討を進めてきた。この度、意見書「政府開発援助(ODA)の改革に関するわれわれの考え」をとりまとめ、橋本総理はじめ関係閣僚、関係方面に対して建議した。以下はその概要である。

  1. 内外情勢の変化と政府開発援助(ODA)
  2. 21世紀を間近に控え、日本は、価値観の多様化、高齢化社会の進展、財政赤字の深刻化といった国内状況の変化に直面しており、政治・経済・行政・社会システム全般の改革が求められている。国際的にはボーダレス経済の下での大競争時代の到来と新たな国際的な緊張、地球規模の問題などに対して、わが国の積極的な参画、協力を求める国際社会の声が高まりつつある。
    これに応え、日本はすでに経済協力、PKOの派遣あるいは国際文化交流等を通じて、非軍事的な協力を行なってきた。特に、貿易立国、資源小国であり国際社会にその存立を大きく依存するわが国にとって、経済協力なかんずくODAは、国際協力を進める重要な柱のひとつであると同時に、民間の貿易、投資活動とともに途上国の経済発展に貢献し、ひいてはわが国の国民的利益を確保するために不可欠な手段である。
    したがって、こうした内外の急激な情勢の変化に対応し、わが国として引き続きODAを通じて国際社会からの期待に応えつつ、わが国の国民的利益を追求していくためには、ODAのあり方を再度問い直し、抜本的な改革に取り組むことが求められている。
    かかる認識に基づき、次の4点をODAの改革の基本的方向とし、これを踏まえて具体的に提言を行なうものである。

  3. 抜本的改革の基本的方向
    1. ODAの位置付けと政策、執行それぞれの一元化による責任体制の明確化
    2. 政府と民間の役割分担、民間の参加拡大
    3. 広範な国民参加による援助の実施
    4. 次期中期目標の量的設定の廃止と効果的援助の推進

提言1 ODA推進体制の改革

[1-1]援助政策を担当する省の一元化

有償資金協力の4省庁体制、さらに技術協力を合わせて19省庁が個別に援助の政策と執行の双方に関与している現在の体制を改め、援助政策は一元化されるべきである。いずれの省が援助政策を担当するのかについては、今後の中央省庁の再編に際して定められるべきである。

[1-2]執行機関の一元化〜国際協力庁(仮称)の設置

現行の実施機関である海外経済協力基金(OECF)と国際協力事業団(JICA)およびODAに係る19省庁の各局、部、課、室などが行なっている業務ならびに予算を見直した上で整理統合し、執行機関として新たに国際協力庁(仮称)を設置すべきである。国際協力庁は、二国間援助、国際機関への出資・拠出および新たに地域開発援助を行なう。
長官は経営感覚とサービス感覚をもった人材が就任すべきであり、民間からの登用も考慮する。

提言2 ODA事業の見直し〜官民のパートナーシップによる援助の実施

[2-1]官民のパートナーシップによる総合支援計画の策定

ODA事業をより効果的に進めていくためには、官民のパートナーシップにより地域、国、テーマ別に総合支援計画を策定すべきである。その際、企業、NGOを含めた民間の資金・ノウハウ・経験とODAとが、どのように連携すれば最も効率的に資金を活用し、途上国の経済発展を有効に支援できるのか、という観点から検討すべきである。

[2-2]個別プロジェクトの各段階(企画・立案・実施から事後評価)における民間とのパートナーシップ

総合支援計画に基づき、個別プロジェクトの企画・立案、実施、事後評価を行なうに当たり、民間(経済界、NGO、学界など)の参画によって知見を集め、速効性のある方策を求めていくべきである。特に個別プロジェクトの企画・立案など初期の段階から民間の視点を取り入れることが肝要である。

提言3 質の充実を目指した援助実現の方策

[3-1]パッケージによる総合的援助の推進

地域、国、テーマ毎に最もふさわしい支援を効率的に実施するためには、既存の援助形態(有償、無償、技術協力)にとらわれることなく、むしろ対象国や対象地域の発展段階や各案件の性格にあわせて資金と機材、人材、技術を柔軟に組み合わせ、ハードとソフトの両面からヒト、モノ、カネをパッケージとして途上国を支援していくべきである。
有償、無償、技術協力のパッケージに加えて、二国間援助と多国間援助のパッケージ、援助供与国・国際機関との支援パッケージ、ODAと民間経済協力とのパッケージを推進すべきである。

[3-2]情報公開と援助に関するデータベースの作成

国民の理解を得、且つより質の高い援助に資するため、データベースの構築とその公開を含めた広報活動を積極的に展開すべきである。


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