経団連くりっぷ No.56 (1997年 5月22日)

なびげーたー

規制緩和の好循環を生み出すために

経済本部長 立花 宏


経済のさまざまな分野で規制緩和への取り組みとその活用が軌道に乗り始めた。民間の果敢な取り組みは、日本企業のバイタリティが健在であることを示している。

経済のさまざまな分野で規制緩和に向けた行政の取り組みと企業による活用が着実に動き始めた。戦後の日本経済は、行政による規制強化の歴史でもあり、1981年の土光臨調以来、電電公社の民営化と通信分野への民間参入の実現を除けば規制緩和への行政の取り組みは、掛け声倒れの面が少なくなかった。それが変わりはじめたのが、第3次行革審の最終答申と経済改革研究会の報告をうけた94年以降の取り組みである。

具体的には、

  1. 規制緩和に関するアクション・プログラム(規制緩和推進計画)の策定とその年度毎の見直し、
  2. 見直しに当たっては、内外の要望を踏まえるなど、改革のプロセスを透明なものにすること、
  3. 行政の取り組みを監視する行政改革委員会の設置、
の3点が大きい。こうした仕組みの整備によってとかく外圧頼み、お役所次第と批判されてきた政府の取り組みにタガがはめられることになった。

経団連においても、94年5月以降、豊田会長のイニシアチブと会員企業の協力の下で規制緩和への取り組みが活発化した。まず前述した仕組みの整備を政府に働きかけた上、毎年、会員企業のニーズを踏まえて具体的な要望項目を取りまとめるとともに、その実現に向け政府、自民党行革本部、行革委員会への働きかけを行なってきた。

その結果、土地・住宅、情報通信、エネルギー、流通、運輸、金融、労働・雇用、独禁政策といった各分野で規制緩和の方向性が決定され、逐次、実施に移されつつある。こうした政府による規制緩和措置を新しいビジネスにどう生かすかは民間企業が、本来、得意とする分野だ。

例えば卸電力の原則自由化が、素材メーカーの落札を契機に電力各社や機器メーカーの意識改革を促し、最近は外国企業の参入が取り沙汰されるなど、一つの規制緩和措置が次々と関連業種に波及し、新たな対応を生み出している。かつての「規制が規制を呼ぶ」状況から、「規制緩和が規制緩和を呼ぶ」という循環へ変わり始めたと言えよう。

こうした状況を経済の全分野で確固たるものとするためにも、ここで規制緩和の手綱を緩める訳にはいかない。現に構造改革が叫ばれている農業や医療などの分野は、これまで規制緩和計画においてほとんど手つかずで残されている。政府の行革委員会は本年12月に設置期限を迎え、3カ年の規制緩和計画も来年3月で終了する。このため、引き続き規制緩和の推進体制を整備し、規制緩和のモメンタムを維持し加速することが欠かせない。「これまで日本経済は平等という左足を大きく出しすぎた。今は自由という右足を前に出さないとバランスを失し、前進できない」(ベンカンの中西社長)のではあるまいか。


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