経団連くりっぷ No.56 (1997年 5月22日)

第548回常任理事会/5月6日

証券市場改革への取り組み等について
山口東証理事長より聞く


第548回常任理事会では、東京証券取引所の山口理事長から、「証券市場の新たな船出に向けて」と題して、証券市場改革への取り組み等について話を聞いた。

  1. 証券市場の現状
  2. 昨年後半以降、景気の先行きに対する不透明感などから、株式市場は総じて軟調に推移している。しかし、企業業績が好調ないわゆる国際優良銘柄などには堅調なものが多く、株式市場では、「株価の二極化現象」が顕在化しつつあるように見受けられる。また、発行市場は、昨年4月に時価発行公募増資のガイドラインが撤廃されるなど、本来の機能を発揮するための環境が整いつつあり、株式関連の資金調達額も増加しており、徐々に回復の兆しが見えている。
    他方、証券市場の真の活性化に向けた具体的な取り組みが本格化するのはこれからである。

  3. 証券市場改革への取り組み
    1. 金融取引の国際化の進展に伴い、世界中の企業や投資家は、より効率的で利便性の高い市場を求め、国境を越えた資金調達・運用を活発に行なっている。
      わが国の現状をみると、高齢化社会の到来を控え、1,200兆円という個人金融資産の効率的な運用が求められている。また、わが国経済を支えてきた日本型経済社会システムが逆に足かせとなって高コスト体質を招いており、経済の活性化に向けて、活力ある新たな産業構造の構築が必要とされている。さらに、世界経済のリード役として、旺盛な資金需要を有するアジア等の新興国への円滑な資金還流という責務も担っている。
      このような中、時代に適合しなくなっている諸制度を早急に見直し、いわゆるグローバル・スタンダードに適った経済の構造改革、とりわけ金融・資本市場改革を行なうべく、さまざまな審議会において活発な議論が行なわれている。

    2. そのような改革のフロントランナーとも言えるのが現在国会に上程されている外為法改正である。改正により証券投資や事業法人の営業活動とそれに付随する資金決済等の利便性が一層高まるものと考えられる。他方、自由化は投資者のコスト意識を高めることは間違いなく、証券投資等の海外流出による国内市場の空洞化を招く恐れもある。そのため、わが国証券市場を国際的により競争力あるものにしていかなければならないという共通認識を広く市場関係者が持つことが何よりも大切である。

    3. 証券市場の改革については、現在、証券取引審議会総合部会において議論が進められている。同部会では、昨年11月、橋本総理が金融システム改革に関して示した、フリー、フェア、グローバルという3つの理念も踏まえ、現在、取りまとめに向けて検討が行なわれているところであり、関係法制度の抜本的改革が期待される。

    4. 東証においても、一昨年6月に証券政策委員会から、わが国証券市場の活性化、国際競争力強化に向けて当面対応すべき課題に関する答申が出され、その提言の多くを実施してきたところであり、新規上場会社数の増加など、その効果も現れてきている。
      証券取引法などの改正には若干の時間を要するが、大口・バスケット取引など多様な売買執行ニーズへの対応、個別株オプション取引などデリバティブ市場の整備・育成、決済代金の即日資金化などの決済制度の改善、成長性の高い中堅・中小企業の上場促進等を本年の主要課題として掲げ、その実施に向けて積極的に取り組んでいく。また、海外企業の上場促進では、中国企業の上場のために、3月に中国証券監督管理委員会との間で相互協力に係る趣意書を交換するなど、環境整備を進めている。さらに、証券政策委員会では、海外証券取引所における市場改革の動向や背景等について本年1月に取りまとめを行なった。こうした諸外国の市場改革の動向を今回の制度改革にも反映させ、国際資本市場として相応しい制度やルール作りに向けて一層注力していく。

  4. 上場会社への要望事項
    1. 株式投資魅力の向上を図る観点からは、株式そのものの価値を高めることが重要である。具体的には、ROE(株主資本利益率)を重視した経営への転換である。また、ROE向上という観点からは、自己株式の利益消却を検討することも重要である。今国会での商法改正により機動的な利益消却の実施が可能となることから、今後とも、検討いただきたい。さらに、配当性向や株主資本配当率等に配慮した配当政策の実施も併せてお願いしたい。

    2. 投資環境の整備について、第1に、投資単位の引き下げをお願いしたい。投資単位の引き下げは、個人投資家をはじめとする幅広い投資者層の市場参入を促進する効果が認められており、これまでもかなりの成果をあげている。しかしながら、欧米の主要証券市場と比較して、わが国の売買単位当たりの投資金額は依然高い水準にあり、引き続き大幅な株式分割やくくり直しの実施をお願いしたい。
      第2は、ディスクロージャーの充実についてである。投資者の自己責任を前提とした市場メカニズムの貫徹する市場を確立するためには、発行会社自らが適時適切な情報開示を行なうことが必要である。また、ディスクロージャーの国際的調和も急務であり、株主や投資者とのコミュニケーションを密にする手段として、IR活動に積極的に取り組むことも肝要ではないかと思われる。

    3. 投資者に対する適切な情報開示を確保する観点から、引き続き決算発表の分散化・早期化に配慮いただきたい。また、株主総会日時の集中化の改善をお願いしたい。

    4. 証券税制の見直しも市場の効率化および国際的市場間競争の観点から重要である。特に改正外為法の施行を来年4月に控えている中、内外の税制上の取り扱いの不均衡から証券取引の国外流出を招くことがないよう、有価証券取引税等の撤廃および配当の二重課税の排除の徹底など証券税制を抜本的に見直すことが必要である。特に有価証券取引税・取引所税の撤廃を、例年以上に強く働きかけていく所存であり、ご理解、ご協力をお願いしたい。

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