経団連くりっぷ No.56 (1997年 5月22日)

今後の日米協力を考える部会(部会長 上原 隆氏)/4月30日

日米通商交渉の今後の展開やいかに
個別交渉中心か、構造論議重視か


さる3月31日、米国通商代表部(USTR)の「外国貿易障壁に関する報告書」が、例年通り公表された。今回のレポートでは、日本について、個別分野ごとの問題に加えて、政府と民間の関係や行政慣行、民間の商慣行など構造問題にも言及されている。そこでグリーンウッド米国経済担当公使役割より、同報告書の概要や日米経済交渉に対する米政府の考えについて説明を聞き、懇談した。


上原部会長

  1. グリーンウッド公使説明要旨
    1. 96年、日本の対米貿易黒字は20%減少したが、ここ数カ月再び増加しており、懸念される。現在日本政府が進めている経済・財政政策が対米貿易黒字拡大につながるかどうか注視している。

    2. 米国民は、日本との貿易を好意的にとらえている。日本製品の輸入増加によって、米国民の生活水準は明らかに向上した。日本企業との競争により、米企業は真剣にリストラに取り組み、成功させ、米経済は活力を回復した(日本からの「外圧」の効用)。
      一方、米国から日本への輸出は、依然として制限されており、米企業が日本経済に好ましい影響を与えられずにいる。

    3. 日米は世界の中で大きな役割を担っているので(世界全体の貿易、生産、ハイテク分野での特許の4割を日米が占める)、両国の健全な経済関係の維持・発展は極めて重要である。

    4. 今回のUSTRの報告書では、日本に最大の紙数を費やしているが、これは日米間の貿易の規模、深みを考えれば当然だろう。米国と日本との貿易は、あらゆる財、サービスにおよんでおり、幅広い分野で貿易上の争点がある。EUやカナダなど他のOECD加盟国と米国との貿易が、農産品に集中しているのとは異なる。日本は米国にとって特別な存在だ。

    5. レポートで指摘した日本市場へのアクセス上の問題点を整理すると4つになる。第1に、日本については水際措置ではなく、商慣行、基準認証など国境内の方が問題である。第2に、最近の日米間の貿易紛争の傾向は、財からサービスに移りつつある。第3に、米国は分野別、構造別(商慣習、流通、競争政策など)の双方のアプローチに関心がある。第4に、「規制緩和」を重視している。過去20年間の主要な貿易問題の半分は、何らかの規制に起因するものである。電気通信、医薬品、保険、自動車部品、民間航空の分野には規制が多い。諸規制は、内外を問わず新規参入者を差別し、その市場アクセスの障害となり得るので、規制緩和は、外国企業のみならず、日本全体が裨益するプラスサム・アプローチである。

    6. 今後は、個別交渉と構造的な交渉を密接に関連させていきたい。NTTの電気通信機器の調達や、ゼネコンによる建設資材の調達において、旧来の構造が変われば、内外の多くの企業が裨益する。

    7. 第2期クリントン政権は、新しい経済チームも含め、人事はまだ固まっておらず、流動的である。今後、クリントン政権は少しずつ変わっていくだろうが、大きな変化はないだろう。一貫性を保持しつつ進化していくと思う。

    8. 以下は私見であるが、現政権は対日通商交渉について、2国間ベースよりもWTOによる多国間のアプローチに集中的に取り組んでいる。これは「結果重視型の貿易政策」であるが、数値目標にこだわるのではなく、話し合いによる原因究明を重視している。
      日本市場へのアクセスの改善具合や、現時点でのニーズについて、常にモニタリングを実施している。NTT調達協定についても、今後、改善内容を検討したい。

    9. 先の日米首脳会談において、特に規制緩和の分野での日米協力の拡充が合意された。これに基づき、今後、両国の該当する省庁で、そのための作業を詰めていく。80年代からの日米交渉の過程で、規制緩和に対する対話が欠けていたことを両国政府関係者が認識した。こうした反省から、規制緩和対象リストの作成にとどまらず、重点項目をしぼり、もっと専門家を入れて対応策を検討するハイレベルの場を設定することになった。

    10. 日本との通商交渉で、米国政府が今後6カ月間に特に力を入れる分野は、(1)民間航空、(2)港湾荷役、(3)電気通信、(4)フィルムである。

    11. 米国は紛争処理の方法について、バイとマルチの両方を使う可能性を追求していく。これに加えて、APECを核とするリージョナルなアプローチも検討していきたい。

    12. 現在、日米関係は史上最も良好な状態にあるが、間違った方向に進む恐れもある。先の会談で両首脳がこのことを確認した意義は大きい。ここで懸念されるのは、日米間の貿易問題は、もはやバイで話し合う必要はない、と明言する官僚が出てきたことだ。意見交換そのものが重要であるにもかかわらず、話し合いの席につくことすら否定している。これまでの日米通商交渉にはなかった現象だ。

  2. 懇談
  3. 経団連側:
    米政府は何故、大店法とフィルム問題をリンクさせているのか。大店法について、内外差別ではなく、大店を規制していることが問題であるというのなら、大店法そのものがGATT、GATSに違反していると指摘すべきだと思うが、いかがか。

    グリーンウッド公使:
    フィルム問題を絡めた理由は2つある。第1に、コダック社が米通商法に基づき米政府に訴え出たため。第2に、日本の流通制度についてものを言うとき、抽象論に終始するのでは、議論が煮詰まらないためである。


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