経団連くりっぷ No.57 (1997年 6月12日)

国際協力委員会・日本マレイシア経済協議会(座長 熊谷直彦氏)/5月20日

ラフィダ・アジズ マレーシア国際貿易・産業大臣との
懇談会を開催


国際協力委員会と日本マレイシア経済協議会の共催により、投資・貿易誘致の目的で来日中のマレーシアのラフィダ・アジズ国際貿易・産業大臣を招き、日本とマレーシアとの経済関係についてヒアリングするとともに意見交換した。
以下はラフィダ大臣の講演ならびに意見交換の概要である。

  1. ラフィダ大臣講演概要
  2. ラフィダ国際貿易・産業大臣
    1. マレーシアにおける日本の投資は、1991年〜97年まで66億米ドルが認可されており、13のプロジェクト(49億米ドル)が実施されてきた。このトレンドが今後も続き、日本から新しい産業分野への投資が促進されることを期待している。

    2. MSC(マルチメディア・スーパー・コリドー)は首都クアラルンプールから南へ広がる15km×50kmの地域を設定し、マルチメディア関連の製品やサービスを創出するため、種々のインセンティブ(10年間の免税措置、100%の投資税額控除、情報インフラの整備、外国人専門家雇用の無制限など)を提供して企業進出を促すプロジェクトである。
      受入窓口となっているMultimedia Development Corporation(MDC)は参加を受け付けており、1カ月以内に認可が与えられる仕組みになっている。すでに政府の電子化、スマート・スクール(学校の電子化)などを促すプロジェクトが認可されており、このほかMultipurpose Card、エンターテイメント製作を普及させるプロジェクトを進めたい。
      サイバー法など知的所有権に関する法制度を整備しており、こうしたマルチメディアに関する共通の法制度をASEAN全体にも拡大すべきである。

    3. マレーシアは第2次産業マスタープラン(1996年〜2005年)を実施中である。本プランでは戦略的に8つの産業グループを定め、国内産業の成長と安定化を図ることを目的にしている。またこれまで輸入に頼ってきた中間部品の国内製造に努めるとともに、産業構造を労働集約型から資本集約型へシフトさせようとしている。

    4. いわゆる「労働力不足」の問題は実際にはマレーシアには存在しない。毎年マレーシアでは約25万人の若い労働者が創出されており、将来性のある業種に投資すれば労働力を十分確保できる。また地域によっても労働力が偏在している。ジョブ・ホッピング対策としては経営者と雇用者との間で紳士協定を結んで定着率を高めていく必要があろう。

    5. 日本企業にマレーシアで問題が生じたとき、政府に直接伝えてほしい。公式ルートでマレーシア政府に伝わると時間がかかる上、解決が難しくなる場合がある。

  3. 意見交換
  4. 経団連側:
    南南協力をどのように進めるつもりか。
    ラフィダ大臣:
    南南協力での大規模なプロジェクトは、高度な技術や経営能力を持つ日本企業などとのジョイント・ベンチャーが必要となろう。南南協力はすぐに利益につながらないものであり、長期的な視野が重要だが、日本企業にはこのようなプロジェクトにぜひ参加していただきたいと考えている。

    経団連側:
    MSCでは人も資本も自由になるということだが、ブミプトラ政策(マレー人優遇政策)との関係はどうなるのか。AICO(ASEAN Industrial Cooperation)スキームやASEANのなかでの分業体制をどのように考えているのか。
    ラフィダ大臣:
    ブミプトラ政策は強制力がないものであり、時代に合わないものは変わっていく。
    AICOスキームはASEANのなかでの産業間の補完促進を目的としており、AICOステイタスを得た会社はASEAN域内貿易について0〜5%の関税マージンが適用される。ステイタスを得るために通常は30%以上の国内資本(National Equity)が要求されるが、マレーシアの場合は、ASEAN域内の資本を合計して30%以上になれば与えられる。ただしマレーシアにより多く投資してほしい。

    経団連側:
    マレーシアに加えて、シンガポール、台湾、フィリピン、タイなどでも大規模な投資誘致プロジェクトを抱えている。オーバー・プロダクションの問題が起こらないか。
    ラフィダ大臣:
    東南アジアでは同様のプロジェクトが複数進められているが、短期的にオーバー・プロダクションがあるとしても、長期的には市場の拡大で吸収される。
    ASEAN内での投資誘致政策の調整は難しい。そのため本年末にはASEAN内の投資政策の協調を行なうためのASEAN Investment Area (AIA)を設立する予定である。

    経団連側:
    マレーシアにおける人材育成政策はどのようなものか。
    ラフィダ大臣:
    必要な人材を育成するためにMSC内にマルチメディア大学を創設する計画がある。また橋本総理が1月に訪問した際、私は大規模な人材育成センターをつくってほしいと提案した。橋本総理は検討すると述べられ、本件について通産省や外務省と話し合っている。

    経団連側:
    ASEANは今年ミャンマー、ラオス、カンボジアが加わり「ASEAN 10」になる。今後のASEANの見通しはどうか。
    ラフィダ大臣:
    AFTA(ASEAN自由貿易地域)に加入するために関税引き下げのスケジュールを作らなくてはならないが、社会主義国のベトナムや加盟予定の3カ国に対しては柔軟に対応している。準備は完全ではないが、3カ国はASEANへの加盟を希望しており、米国が反対しているミャンマーもASEANは受け入れる方針である。


くりっぷ No.57 目次日本語のホームページ