経団連くりっぷ No.57 (1997年 6月12日)

日本ベネズエラ経済委員会(委員長 亀高素吉氏)/5月23日

ベネズエラ政治・経済情勢について聞く


日本ベネズエラ経済委員会では1997年度総会を開催し、96年度事業報告・決算、97年度事業計画・予算を審議、承認した。当日はオマーニャ駐日ベネズエラ大使を迎え、最近のベネズエラ政治・経済情勢および日本とベネズエラの関係について説明を聞くとともに懇談した。
以下はその概要である。

  1. オマーニャ大使発言要旨
    1. ベネズエラ経済情勢
    2. 政治、経済、社会の安定化計画として1996年4月にアジェンダ・ベネズエラが策定、発表された。投資促進評議会(CONAPRI)がベネズエラ国内の企業家を対象に最近行なったアンケートによれば、同計画の成果として、(1)石油部門の自由化、(2)労働改革、(3)インフレ率の低下、(4)社会面、労働面における安定の継続があげられている。さらに為替管理の自由化、約160億に達している外貨準備高の増加、為替相場の安定、国営銀行の売却等も成果である。一方、行政改革、司法改革、社会保障制度改革、国営企業の民営化については遅れが指摘されている。
      ベネズエラの外貨収入の80%、GDPの25%を稼いでいる石油部門では、ベネズエラ石油公団(PDVSA)は現在の1日あたり320万バーレルの生産能力を2006年までに600万バーレルに増強する中期計画をたてている。これはベネズエラ1国で日本の消費量をまかなった上で、さらに100万バーレルの余裕がある量である。この計画を実現するため600億ドルの投資が必要であるが、うち150億ドルは国内外の民間からの投資を予定している。ベネズエラでは、これまで石油によって得た収入の管理が適切になされなかった。そのため、例えば1976年から1996年の20年間に石油の輸出により2,000億ドルの収入があったにもかかわらず、巨額の対外債務を抱え、社会保障問題も解決していない。PDVSAの中期計画はこうした過去に対する反省をふまえて作成されており、今後は適切な管理が期待される。

    3. ベネズエラ政治情勢
    4. ベネズエラでは1958年からすでに40年近く民主政治が行なわれている。基本的には民主行動党(AD)とキリスト教社会党(COPEI)の2大政党が交代で政権を担ってきたが、カルデラ現大統領は国民統一党(CN)が支持基盤である。現在の政治情勢は非常に流動的である。社会主義運動党(MAS)ならびに急進大義党(CAUSA R)が分裂、ADおよびCOPEIの重要性も小さくなっており、CNは再選が禁止されているカルデラ大統領を除けば力を持っていない。このような情勢ゆえ、1998年12月実施予定の次期大統領選挙では、無所属の候補者が当選する可能性もある。その一番手として目されているのは36才、元ミス・ユニバースのイレーネ・サエス チャカオ市長である。特定の支持基盤はないものの、非常に高い支持を得ている。またPDVSA総裁のルイス・ジュスティ博士の名もあがっている。他、COPEI、AD、MASの支持を得た候補者もいるが、支持率は低い。

    5. 日本・ベネズエラ関係
    6. ベネズエラには豊富な資源があり、日本の技術と投資によりこれを開発することが望まれる。両国間には距離と時差があり、文化、言語も異なるが、JICAを中心とした技術協力や日本ベネズエラ経済委員会、日本ベネズエラ商工会議所の存在は両国関係の資産である。1992年から1995年の両国間の年平均貿易額は10億ドルに達し、日本の対ベネズエラ直接投資額は1995年までの累計で5億ドルを超えている。COMSIGUAプロジェクトやクア・カラカス鉄道プロジェクト、クリストバル・コロンLNGプロジェクトも進行中である。さらに本年2月、ブレリ・リバス外相およびベネズエラ経済界代表が訪日したことにより、両国間のきずなはさらに強化された。石油、鉱業部門以外で日本の投資家に注目してもらいたい分野として、トロピカル・フルーツ、カカオ、コーヒー、アロエベラ等の農業や、観光、パルプ・製紙等がある。これらはそれほど大規模ではない投資が可能である。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    ベネズエラのメルコスール、NAFTA加盟時期はいつごろになりそうか。
    オマーニャ大使:
    NAFTAについては米国議会の承認の問題があるので、先にメルコスールに加盟することになろう。ブラジルのカルドーゾ大統領、ウルグアイのサンギネッティ大統領もベネズエラのメルコスール加盟を支持しており、実現に向け努力しているところである。ベネズエラはアンデス共同体、G3に加盟しており、米国、カナダとも緊密な関係にあるが、メルコスールに加盟すればブラジル、アルゼンチン、チリ等、南の巨大市場へもアクセスを得ることになる。その他、APECのエネルギー委員会に何らかの形で関わりたいと思っている。

    経団連側:
    メキシコの場合、民営化、規制緩和、企業の国際競争力強化等の施策を行なったがベネズエラではどうか。また石油部門以外で投資、貿易を伸ばすにはどのような分野が有望か。
    オマーニャ大使:
    為替管理の自由化政策により、外国企業による外貨の本国への送金が自由になった。ベネズエラの高品質の労働力と日本の技術力を組み合わせれば輸出もさらに伸びる。輸銀がベネズエラで中小企業向け案件発掘調査を行なっているので参考になろう。

    経団連側:
    ベネズエラで操業するに際し、治安問題は頭の痛いところである。これに対し政府はどのように考えているか。
    オマーニャ大使:
    特にコロンビアとの国境付近で治安が問題となっており、ベネズエラ、コロンビアで話し合いを行なっている。今後は経済活性化の効果により治安も改善されてこよう。


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