経団連くりっぷ No.57 (1997年 6月12日)

第20回日本カナダ経済人会議(委員長 江尻宏一郎氏)/5月11日〜13日

着実な歩みを見せた日加ビジネスの20年間


日本カナダ経済委員会では、5月11日〜13日にカナダのトロントにて第20回日本カナダ経済人会議を開催し、日本側から205名、カナダ側から203名が参加した。全体会議では、日加関係の過去20年の歩みと今後の展望、近年のカナダ経済の動向に関する講演や経団連訪カナダミッション(96年9月)の報告等が行なわれた。7分野の産業別分科会では、日加両国の各分野の現状と今後の協力の可能性について活発な議論が行なわれた。
以下は全体会議の概要である。

  1. 双方団長開会挨拶
    1. 江尻日本側団長
    2. 96年の第19回福岡会議からの1年間は、経団連訪カナダミッションやクレティエン首相の訪日など日加関係の発展において重要な年となった。
      日本経済は力強さを取り戻しているが、景気回復を本格的なものとするには、さらなる構造改革が必要である。
      過去20年間、世界経済は大西洋から太平洋へと大きくシフトしてきた。日本とカナダはアジア太平洋市場を舞台に協力関係を強化していくことが必要である。

    3. ブージーカナダ側団長
    4. 日本カナダ経済人会議は、日加関係の友情を培う上で大きな役割を果たしてきた。
      民間投資の活発化、消費支出の拡大など最近のカナダ経済はこれまでになく好調である。財政赤字削減も順調に推移している。
      輸出については、対米、対日共に好調であるが、加工製品やサービス分野をさらに強化していく必要がある。
      カナダは1997年を「アジア太平洋の年」と定めたが、アジア太平洋地域に焦点をあて、日本との経済関係を発展させていきたい。

  2. カナダの国際競争力
    トーマス・ダッキーノBCNI(Business Council On National Issue)会長
  3. 1980年代後半、世界におけるカナダの国際競争力は16位まで下がった。その後、FTAやNAFTAの締結、政府のインフレへの取り組み、企業のリストラなどが功を奏し、1996年には第8位にまで回復した。
    現在、国内経済は低いインフレ率と長期金利、堅調な設備投資と国内需要に支えられ順調に推移している。1997年の経済成長率はG7で最高の3.4%の見込みである。
    また、多国籍企業にとって、カナダはR&Dを行なう上で魅力的な環境を有している。具体的利点としては、優遇税制や質の高い労働力、低い研究開発費、政府のバックアップ等がある。
    日本企業にとっては、NAFTAやAPEC等の地域的枠組みの中でカナダとの協力関係を考えていくことが有益であろう。

  4. 日加ビジネスの20年の歩み
    1. カルバー元カナダ側団長(第1回〜第11回)
    2. ビジネスの原点は人間と人間の付き合いにある。ビジネスは、国境、言語、宗教、文化を超えて人と人とを結び付けるヒューマン・アクティビティである。日加経済人会議はこの理念を大切にして1978年の東京会議以来20年間両国の信頼の絆を深めてきた。
      20年前のカナダ企業は、石油危機後に実施された石油政策やストライキの多発、生産性の低下等の問題を抱えていたが、20年を経て、カナダ企業は国際競争力の強化に成功している。20年前に日本企業がカナダ企業の生まれ変わりを信じてくれたように、われわれは、日本経済が力強さを取り戻していくことを信じている。

    3. 奈良前カナダ大使(東京電力顧問)
    4. 本会議は、1976年の槙田(当時日本鋼管社長)ミッションが日加関係を強化するには、相互理解を深めるための民間同士の話し合いの場を恒常的に持つことが重要であるとカナダ側に提案したことから始まった。
      以来20年間、日本カナダ経済人会議は、加米、日米関係とはまったく別の、環太平洋を結ぶもうひとつの架け橋として重要な役割を果たしてきた。
      20年の日加経済人会議の歩みを振り返ると次の3時期にわけることができる。

      1. 1978年の発足から1980年代半ばまで:
        日本は、資源大国としてのカナダに強い関心を寄せており、会議ではカナダのエネルギー政策などが話題の中心になった。

      2. 1980年代半ばから1990年頃まで:
        日本の対カナダ製造業投資が資源産業投資を上回るようになり、会議ではカナダの経営・投資環境等について議論が行なわれた。

      3. 1990年代初めから1997年まで:
        世界のリージョナリズムの動きが活発化したことから、会議ではNAFTAやAPECなど地域経済の枠組みを視野に入れた日加協力の可能性が取り上げられるようになった。

      日加両国の協力関係の緊密化は、世界経済の発展にも貢献するものと考える。

  5. 日加関係の今後
    ウェンディ・ドブソン トロント大学教授
  6. 今後20年の世界経済を展望すると次の6点にまとめられる。

    1. 世界経済の繁栄は、主要国の低インフレによって可能になる、
    2. 情報通信革命により貿易・投資活動のグローバル化が加速し、企業のボーダレス化が進む、
    3. 一方、失業問題などが表面化し、政策調整が必要になる、
    4. アジアのインフラ資金需要をはじめ経済発展を支える金融システムの開発が必要になる、
    5. 先進国経済の順調な発展は、アジア地域の経済繁栄により可能となる、
    6. 日本、米国、中国の3カ国がエコノミック・ジャイアントになる。

    以上のことから今後の日加関係は、これまでの2国間をベースにした関係構築からボーダレス化した世界市場における日加協力、特に、急速に発展するアジア太平洋市場における日加協力へとシフトしていくであろう。


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