経団連くりっぷ No.57 (1997年 6月12日)

欧州、東アジア、APECの協力による東アジア開発セミナー/5月16日

APECは今後の多国間協力の方向性を示唆する


経団連と豪州国立大学豪日研究センター(所長:ピーター・ドライスデール教授)は、東アジアの発展を基本テーマに、94年以来毎年セミナーを開催している。「ビジョン」から「行動」の段階に移行したAPECや昨年欧州とアジアの間に発足したASEM(アジア欧州会合)に見られるように、東アジアを中心とした経済交流の動きが活発化している。それら各種会合の意義を改めて問い、今後の東アジアと欧州の協力関係の方向を検討するために、本セミナーを開催することとした。経団連からは、立石アジア・大洋州地域共同委員長(APECビジネス諮問委員会日本代表委員)ほか、約110名が参加した。以下は主な発言の要旨である。

  1. アンドゥルー・エレック豪日研究センター研究員
  2. ヨーロッパ連合(EU)もアジア太平洋経済協力(APEC)も、地域協力体であるが、その性質は大きく異なる。EUは条約のもとに成立している共同体であり、法的拘束力を持つ。また、EU内で取り決められた事項は、域内のみに通用し、その恩恵は域外には適用されない。
    一方APECは、EUと同様、域内の高度成長を持続させ、それを妨げる貿易・投資の障害や経済成長の隘路を取り除くことを目的としているが、自由化については、各国の自発性に任されており、非拘束原則を採用している。また、協力の成果が域外にも平等に適用される開かれた地域協力である。
    このように自発的な地域協力の成果を無条件に域外に適用しようというAPECの理念が発展し、"OPEN CLUB"を実現できれば、APECが今後の世界経済における多国間協力の1つの方向性を示すものと考える。

  3. 桑田芳郎日立製作所常務取締役国際事業本部本部長
  4. 貿易・投資の円滑化については、APECを通じて一層の進展が望まれる。そのためには、アジア経済の持続的成長が重要であり、今まで米国が比較的大きな役割を果たしてきた輸入市場としてのアブソーバー役を、欧州、日本もさらなる市場開放により果たしていかなければならない。
    また、比較的少ない欧州からアジアへの投資を促進するために、日本をはじめとするアジアの企業と欧州企業との戦略的提携も有効と考える。サポーティング・インダストリーの育成や人材育成においても、日欧の協力の余地は大きい。
    このように東アジアの持続的経済成長に側面協力することこそが、欧州と日本の役割だと考える。

  5. ポンシアノ・インタール・ジュニア
    フィリピン・インスティチュート・オブ・デベロプメント・スタディズ所長
  6. APECには未ださまざまな問題が残っているが、中でも円滑化の問題が大きい。貿易・投資の円滑化は貿易の自由化を補完するものとして大変重要である。
    円滑化措置の強化を図るためには、3つの要素が必要である。第1に地域とマルチのイニシアチブの補完性確保である。地域(APEC)の円滑化の努力は、マルチ(WTO)の努力と一貫性をもつことが望ましい。第2に貿易と投資の自由化・円滑化に対する統合的(INTEGRATED)アプローチ、第3に各国の異なる発展段階に応じ、信頼と自信を醸成できるような進化的変化への方向付け、つまり柔軟性が必要である。
    さらに、APECの投資レジームを改善するためには、以下の2つのことが必要である。第1にボゴール宣言のオープンな投資レジームの概念、つまり2010年または2020年の自由化のゴールに必要な最低限の措置を明確にすることである。第2に、レジームにより透明性を持たせるために、APECの非拘束原則を整理し強化することである。

  7. 近藤剛伊藤忠商事取締役政治経済研究所所長
  8. 貿易・投資の自由化・円滑化は、健全な形での世界経済の成長の維持が目的であるが、これを阻むボトルネックを2つ指摘したい。
    第1が、人材育成のボトルネックである。知的所有権の保護や税関の手続きの簡素化などの多くの分野において、官民両方を対象とした人材育成が急務である。
    2つ目のボトルネックは、インフラ開発である。投資の分野でリベラル・レジームが成立していても、インフラが欠如していては実質的自由化にはつながらない。また、将来見込まれる大規模なインフラ需要に対応するため、民間によるインフラ投資を可能にするスキームの開発が必要である。

  9. 山澤逸平一橋大学教授
  10. APECとEUは地域の自由化という共通の目的を持つ。しかし、EUは最も進んだ地域協力体であるのに対して、APECは法的拘束力を持たないゆるやかな経済協力体である。
    ASEMはアジアと欧州の弱い関係を強化する目的で発足し、APECとEUを結ぶ地域協力体である。しかし、その性質としては、EUモデルではなく、柔軟性と自発性を重んじるAPECモデルを採用することが望ましい。なぜなら、ASEMはAPECのように発展レベルも異なる多様なメンバーの集まりだからである。

  11. フランク・H・ヘスケ欧州連合駐日欧州委員会代表部公使参事官
  12. EUはそもそもAPECのような「地域協力」ではなく、「地域の統合」を目的にしていることを忘れてはならない。そのためEUは、経済のみならず、政治、安全保障など生活すべての面に影響を及ぼす。
    APECは、域内の貿易・投資の自由化・円滑化のために発足したが、その影響力の大きさから、世界全域の貿易・投資の分野におけるルールを作成する上で、WTOと競合する存在になるのではないか。
    ASEMは、欧亜間の政治的対話を促進する目的で発足し、経済のみならず安全保障などもアジェンダに含まれている。欧亜間の経済交流を盛んにし、関係を強化するためには、APEC同様、民間の活力が不可欠な要素であり、ASEMプロセスへのさらなる民間の参加が望まれる。

  13. ピーター・ドライスデール所長
  14. EUは、経済的には内向的姿勢を取り、域外に対して差別的になる可能性がある。それを避けるためにも、ASEMは重要な存在である。


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