経団連くりっぷ No.57 (1997年 6月12日)

アメリカ委員会・トーレル米国製薬工業協会会長との懇談会/5月28日

医療の「黄金時代」に向けて


97年4月、米国製薬工業協会会長に就任したイーライ・リリー社のシドニー・トーレル社長兼CEOより、変革する日米の医療問題の現状と展望について説明を聞き、懇談した。
以下はその説明の要旨である。

  1. ヘルスケア改革の3つの柱
  2. 高齢化が急速に進み、ヘルスケアのコストが増大する中、旧態依然とした医療政策はもはや通用しなくなっている。できるだけ少ない費用で、最高の医療を受けられることを目的として、ヘルスケア改革を行なわねばならない。この改革は、3つの基本原則に基づくべきである。

    第1に、Total Quality Managementを土台とするIntegrated Care(統合されたケア)の提供。これは患者のニーズを最優先し、情報技術を最大限活用しつつ、医療の各段階を全体的に一つの流れとして総合的に管理するアプローチである。米国では、企業が率先してIntegrated Careを推進しており、マネージド・ケア(総医療費管理型医療保険提供機構)のネットワーク等を通じて、すでにこの手法がかなり浸透している。この結果、95年の管理医療プログラムの年間コストの伸び率は2%にとどまっている(公共部門のプログラムは8.7%)。

    第2は、画期的な技術革新。医学・薬学研究の飛躍的な発展により、病気治療・予防が進むとともに、コスト削減の面で大きな成果(長期入院など高額な治療が不要になるなど)が出ている。

    第3は、自由市場政策。ヘルスケアの発展には競争が不可欠である。自由市場政策を維持することにより、競争力が強化され、情報技術を生かしたIntegrated Careや画期的な技術革新を今後とも推進することが可能になる。

  3. ヘルスケアにおける政府の役割
  4. 各国政府は、医学上の技術革新の審査をより迅速に行なわねばならない。日本の規制当局も、海外の科学技術データを審査に使えるようにすべきである。

    FDA(米国食料医薬品局)では、過去4年間に、新薬の審査期間が平均で50%短縮された(30カ月→15カ月)。

    日本では、医療費に占める医薬品の割合が非常に大きい。これは2つの点で懸念される。第1に、医薬品はじめ医療手段への需要に大きな影響を与える恐れがある。第2に、価格統制など供給側が行なうコントロールは、長期的には、コストの削減にも、患者の救済にもつながらない。


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