経団連くりっぷ No.57 (1997年 6月12日)

今後の日米協力を考える部会(部会長 上原 隆氏)/5月15日

成熟する日米関係と貿易不均衡再拡大への懸念


日米首脳会談(4月25日、於 ワシントン)の模様や当面の日米共通の課題について、外務省の鶴岡北米局北米第二課長より説明を聞き、懇談した。

  1. 鶴岡課長説明要旨
    1. 今回の首脳会談では、政治・安全保障の問題が大きな位置を占めた。アジア太平洋地域の安保の面で、日米がどのような協力関係を構築できるかが話し合われた。この背景には、中国と日本に対する最近の米国の見方の変化がある。

    2. 現在の米国では、とくにマスコミの間で、中国に対する関心が非常に高い。政治・軍事体制、人権の状況など原理・原則の面で米国と異なっていることや、対米輸出が急速に伸びていることを理由として、中国を米国にとっての脅威とする見方が広まっている。北朝鮮情勢も大いに注目されている。この反作用で、日本については、共同すべき国という気運が芽生えており、これが現在の日米関係の底流になっている。

    3. 80年代後半から90年代前半にかけて、日本は米国にとって極めて大きな経済的脅威であった。米国を象徴する不動産を日本企業が買収したり、自動車など従来米国が最も得意としてきた産業で日本に負かされたりという事態が生じていた時期である。

    4. ところが今日では、日本脅威論はもはや形を留めていない。その理由は、日米間の貿易不均衡がここ数年減少傾向にあったためである。しかし、昨年の第4四半期あたりから、不均衡の縮小の勢いが衰え、今年に入ってからは、さらに縮小幅が縮まっている。クリントン大統領就任時より対日輸出が50%近くまで増加し、同時に日本の対米輸出は減少してきたものの、この間、日本のマクロ経済改革は進んでいないため、再び日米間の貿易不均衡が拡大する可能性が出てきている。米国はこの傾向を非常に警戒しており、今回の首脳会談でも、貿易不均衡の再拡大は、日米経済関係に非常に深刻な影響を与える恐れがあるので、日本も十分認識してほしいと懸念を表明された。

    5. 日本政府は、首脳会談はじめあらゆる機会に、統計資料を用いて日本の対外収支の推移について説明し、80年代のような対米貿易黒字の大幅な拡大はあり得ないと説いている。日本経済は、ここ10年間で大きな構造転換を遂げた。仮に円安が続いても、対米輸出が飛躍的に増大し、10年前の状況に戻ることはない。また、日本の対外収支については、従来のように経常収支ではなく、貿易・サービス収支に基づいて議論すべきと主張している。

    6. 対GDP比で、日本の経常収支は1.4%、貿易・サービス収支は0.5%まで落ちている(96年)。貿易・サービス収支の対GDP比は86年の3.9%から、この10年間で10分の1近くまで低下した。この数字はG7諸国中、最も低いレベルにあり、日本の外需への依存が大幅に減ったことを示している。その理由は、日本企業の海外投資が進んで、現地生産や第三国からの輸出が増える一方で、日本から直接外国市場に輸出する製品の比率が低下しているためである。現在では、海外での生産額と、日本からの輸出額がほぼ同額となっている。輸入浸透度も年々増加傾向にあり、先進国中でも低い数字ではなくなっている。
      米国が日本のマクロ経済状況について懸念を拭い切れない理由は、こうした構造変化を踏まえた係数モデルを持っていないためである。

    7. しかし、日米間の貿易不均衡は、短期的には縮小しないだろう。日本の内需の問題と円ドル・レートの影響があるためだ。今年度の第2四半期(4-6月)は、このまま内需が冷え込んだままでいくと、瞬間風速では、相当大きな貿易黒字となる恐れがある。そうなると、米国の懸念通り、マクロ経済政策をめぐって、日米の議論が沸騰するかもしれない。この問題は、6月のデンバー・サミット時に開催される日米首脳会談でも話し合われる予定である。

    8. こうした状況に対して、日本政府として打てる政策は限られている。現在、行財政改革、規制緩和が最重要課題となっているので、従来のような財政支出型のマクロ経済政策をとれる政治的状況ではない。公定歩合も容易には動かせない。そこで、長期的にマクロ経済環境を健全化する方向で、規制緩和、構造改革を実行しつつ、問題化しそうな個別案件に1つひとつ着実に対処していくことが、今後一層重要になってくると思う。日本は叩き続けなれればオープンにならないという強い固定観念が米国内に存在するので、日本側に少しでも非のある案件については、誠実に対応すべきである。

    9. 今回の日米首脳会談で、規制緩和に関する対話を強化することが合意された。この合意を踏まえて、すでに事務レベル協議が始まっている。米国企業の日本市場参入促進を目的として、日本の規制緩和について米国と話し合うのは筋違いだが、規制緩和の成果を測る尺度は必要である。日本自身のために規制緩和や構造改革を進めるとはいえ、その過程で、米国の協力が得られるのであれば、歓迎こそすれ、拒絶すべきものではないと思う。

    10. 個別案件で見ると、紛争案件と呼べるようなものは、現在では存在しない。唯一の例外は、航空問題である。これも現在、日米の事務レベルで協議が進められており、今後大きな問題になることはないだろう。今回の首脳会談で米国より言及があった個別の経済案件は、(1)電気通信、(2)自動車部品、(3)港湾運送、(4)リンゴの輸入、(5)捕鯨である。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    日本の厳しい現状を米国は理解しているのか。
    鶴岡課長:
    日本が改革の苦しみにあるということは、一般によく理解されていると思う。ただし、東部のエスタブリシュメントは、日本の規制緩和、構造改革に根強い疑念を抱いている。


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