経団連くりっぷ No.57 (1997年 6月12日)

創造的人材育成協議会企画部会(部会長 森本昌義氏)/5月30日

今、まさに教育改革の時


創造的人材育成協議会では、21世紀を担う創造的な人材育成のための環境作りに向けて、企業として取り組むべき具体的な課題・方策等を検討するとともに、教育改革の動きに機敏に対応するために、同協議会の下に、企画部会(部会長:森本昌義ソニー取締役)を設置した。第1回会合では、文部省大臣官房の田中政策課長より、欧米の教育改革の動向およびわが国の教育改革への取り組みについて説明を聞いた後、今後の部会の活動方針等について、種々懇談した。以下は、田中政策課長の説明概要である。

  1. 欧米における教育改革への取り組み
    1. 1990年1月、ブッシュ大統領は、一般教書演説において、すべての学齢児童を学校に入学させる、高校卒業者を2000年までに90%以上とする等の6項目を、国家の教育目標として掲げた。また、アーカンソー州知事時代より、教育改革に取り組んでいたクリントン大統領は、ブッシュ大統領の6項目の目標に(1)教員の研修、(2)学校・家庭の連携を加え、国家教育目標とその戦略を描いた「ゴールズ2000アメリカ教育法」を1994年に成立させた。そして本年初頭の一般教書演説において、すべての8歳児が字を読み、12歳の子供全員がインターネットを使えるなど、すべての米国人が世界最良の教育を受けられるために、教育の全国基準の導入など10項目におよぶ行動計画を提案している。

    2. イギリスにおいては、1987年10月、サッチャー首相は、国会において、日本等の各国と競争するには、教育の質的向上が必要である旨を訴え、1988年には、(1)全国共通のカリキュラム編成と到達度を見るテストの実施、(2)学校選択の拡大、(3)地方交付金を受けられる学校の設置等からなる「教育改革法」を制定した。1996年から、英・数・科学の共通カリキュラムが実施され、すでに各地における児童の目標到達度が公表されている。

    3. このように、欧米における教育改革は、基礎的な学力をつけさせるために、多様性から共通性への改革が図られている。

  2. 乱塾ブーム発生の背景
    1. 日本では、これまで金太郎飴的な教育が行なわれてきたが、今後は、基礎基本を重視するとともに、個性や多様性を尊重する方向で教育のあり方を考える必要がある。

    2. 今日の教育問題の最大のポイントは、社会全体が、知識量だけで子供の学力を評価してしまい、それが子供たちに閉息感・窒息感を生み出していることにある。学歴偏重社会の下で、受験競争が激化し、知識量に重点が置かれてきたため、体験の不足、いじめや不登校等の問題が顕在化した。

    3. なぜ、このような状況が生じたのか。1955年から1975年にかけて、大学進学率は10.1%から37.8%へ、また高校進学率は51.5%から91.9%へ上昇した。これに対応するため、私学振興助成法等を成立させて、私立大学の量的拡大を図った。しかし、助成金にも限界があるため、量的拡大から、質的充実への方針転換ということで、地方の新増設を重視し、大都市部での定員を抑制した。このため、大都市を中心に乱塾ブームが起き、地方へと拡散させてしまった。これも、要因のひとつとして考えられる。

  3. 教育改革の方向性
    1. 受験競争は、量的な面では、今後、緩和されるだろう。1996年では、大学・短大には約80万人、専門学校には約35万人、合計約115万人が進学している。現在の小学3年生は約130万人、小学1・2年生は約120万人である。彼らが進学する時には、大学全入の時代となろう。むしろ、今後は、大学が個性を打ち出し、選択してもらうようになる。まさに、親も、先生も、子供の良い面を伸ばせば良いという意識を持ち、教育改革を推進すべき時代が来ようとしている。

    2. 個性を見出し、伸ばす教育は難しいが、個性を発揮しやすい条件、個性を摘まない条件を整えることはできる。子供の良い面を誉め、存在を認めることで、子供は自信を持ち、個性を伸ばそうとするだろう。そのためには、実験や自然・社会体験等の活動とともに、自ら考え、工夫するような場を教育に取り入れる必要がある。例えば、地域で知識・技術を持った人から教わることも重要である。

    3. 2003年には、学校週5日制となる。さまざまな活動が可能となるような地域作りが必要である。そのためには、学校だけでなく企業、団体、個人の協力を得て、活動の場を充実させる必要がある。行政としても、縦割りではなく、「面」でみた取り組みを行なっていく。

  4. 文部省における教育改革への取り組み
    1. 昨年7月に、中央教育審議会は、ゆとりの中で「生きる力」を育むため、教育内容を厳選し、家庭・地域等が一体となって教育改革に取り組むべき旨の第1次答申を出した。

    2. また、文部省では、本年初頭に、教育改革が6大改革に位置づけられたことを受けて、1月に、教育改革を推進するために「教育改革プログラム」を策定した。同プログラムでは、教育改革を一層推進するために、経済界等との協議の場を設けることとしており、5月14日には、「教育改革フォーラム」を開催した。6月には大阪で開催する。

    3. 現在、中教審では、大学・高校入試の改善、中高一貫教育、教育の特例措置等について検討している。大学・高校入試では、知識だけでなく、考える力や学校での活動歴を評価するような方策や、あるいは地域性を重視した入試を提案している。中高一貫教育に関しては、地方が工夫して、特色ある学校を設置し、保護者が特色を通じて、選択できるようにすべきとした。また、数学と物理に関して特異な能力があり、将来専門家を目指す者に対して、17歳での大学入学を認めることも盛り込んだ。

以上の検討結果を「審議のまとめ」として、本日、公表し、関係各方面の意見を聞いた後、6月下旬に第2次答申として取りまとめる予定である。


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