経団連くりっぷ No.57 (1997年 6月12日)

流通委員会企画部会(部会長 丹羽宇一郎氏)/5月29日

電子商取引の取り組みについてのヒアリング


流通委員会企画部会では、電子商取引の普及・推進のために必要な環境整備についての検討の一環として、プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク(P&G)川元彰夫専務と小林忠アソシエイト・マネージャーから、P&GにおけるECRの取り組みについて聞いた。
以下はその概要である。

  1. 説明概要
    1. P&Gの理念とECRへの取組み
    2. P&Gの理念は「優れた品質と価値を持った製品をもって、世界の消費者の暮らしをより良いものとすることに貢献すること」である。この価値というのは、優れた品質の製品が適正な価格で提供されて初めて実現されるものである。
      しかし、実際に消費者にとっての価値は、店頭での購入価格で決まるので、そこに至るまでのサプライチェーンのプロセス全体で無駄のないオペレーションに取り組まなければならない。
      そのための取り組みとして注目されているのがECR(効率的消費者対応:Efficient Consumer Response)であり、その時々で変化する消費者のニーズに適合した商品のみを、ローコストで迅速に、透明性のある価格で提供することを目指している。
      P&Gは、まず米国でディスカウンターのウォルマートとの間で戦略的同盟を結び、ECRを実現した。EDI(電子データ交換:Electronic Data Interchange)を利用してタイムリーで効率性・生産性の高い生産システムを構築することによって、業績を飛躍的に向上させることができた。

    3. ECR成功の4つの戦略
    4. 米国でECRが成功した背景には、製造・配送・販売の共同による消費者への強いコミットメントがあり、それは基本的に下記の4つの戦略で構成されている。

      1. 効果的な価格・販売促進:
        価格があまり上下することなく、いつでも消費者が安心して買え、供給の山と谷が起きない。

      2. 効果的な商品補充:
        メーカー・卸間、卸・小売間だけでなく、原材料から商品が店頭に至るまでのプロセス全体を視野に入れ、共通の目的をもって最適化する。

      3. 効率的な品揃え:
        消費者にとって本当に必要なアイテムのみを販売し、消費者の選択を容易にし、その結果として、常に新鮮な商品を消費者に提供する。

      4. 効率的な新商品導入:
        常に魅力がある製品のみを導入する。消費者にとって無意味な商品は、無駄な品揃えや在庫につながる。

    5. 具体的なEDIの取り組み
    6. 米国でECRを推進する上でカギとなるツールとして、EDI、CRP(連続商品自動補充:Continuous Replenishment Process)、フロー・スルー物流、カテゴリー・マネジメント、ABC(Activity Based Costing)、ECRスコアカード(ECRの進捗状況の指標とする)が挙げられている。
      中でも、EDIの役割は、(1)取引において付加価値を生み出さないコストを取り除くこと、(2)取引の透明性を高めること、(3)取引の正確さと迅速さを向上させることであり、これを構築する際には、オープン化(条件を整えれば誰でも参加できる)と標準化(プロトコル、フォーマット、コード体系等の統一化)を最も重視している。
      日用品・雑貨については、プラネットと呼ばれる業界VANに参加し、医薬品に関してはJD−NETとNHIというVANに加入している。そこで、これらの製品については、一次卸80店とのEDIでは、発注、仕入れ、請求等のデータをエラーフリーでやり取りできる。
      ところが化粧品業界においては、これといった業界標準が存在しておらず、各社がバラバラに取り組んでいるのが実情であり、EOS(電子発注:Electronic Ordering System)はある程度広がっているものの、売り上げ請求等の基本的取引は古典的な伝票で行なわれている。

    7. EDIについての今後の展望
      1. EOS100%へ向けての取り組み
        EOS比率を高めるために、第1には取引先に対するEDIサービスメニューの拡充を図る。具体的にはASN(事前出荷通知:Advance Shipment Notice)の送信により、出荷先の検品作業軽減に活用してもらう。第2には、最低発注数量を上げることで、発注回数を減らし、同時に、一次・二次問屋の機能を改めて見直す。第3には、発注をEOSで行なうことを取引条件のなかに盛り込んでいく方向にする。

      2. サプライチェーン全体のEDIの推進
        プラネットと共同で、卸と小売の間のEDI化を全面的にバックアップすることを通じて、小売店での売り上げ情報等をメーカーでも活用できることを期待している。

      3. 商品イメージデータのEDI化
        テキスト型の商品情報だけでなく、情報量が膨大であるために、これまではEDIで送信できなかった色や形状などのイメージデータのデータベース化を図り、卸や小売での効率的な棚割り作業に役立てる。

      4. CRPの推進
        CRPによって、卸や小売の在庫量と売り上げ予測に基づいて、メーカーから自動的に商品を補充し、相互の在庫を圧縮することと、同時に人件費の削減も狙っている。さらに、それに加えて、流通効率を向上させるための、計画出荷、パレット出荷、フル・トラック・ロードをシステムに組み込み、流通の最適化を図ろうと考えている。

  2. 質疑応答
  3. 問:
    欧米での取り組み状況は。
    答:
    標準化については、米国では従来ASN標準が主流であったが、ヨーロッパからEDIFACTへの標準化の動きが強まってきており、漸次切り替えが進んでいる。
    また、米国では、売り上げ全体の40%が、すでにCRPで行なわれている。主要な取引データもほとんどEDI化されている。


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