経団連くりっぷ No.58 (1997年 6月26日)

WTOスタディ・グループ(座長 櫻井 威氏)/6月3日

WTOニュー・ラウンドの可能性


WTOスタディ・グループでは、メルシェWTO事務局長室特別顧問より1995年発足以来のWTOの成果と1998年に予定されている第2回閣僚会議に向けた取り組み、ニュー・ラウンドの可能性等について説明を聞くとともに意見交換を行なった。

  1. WTOの成果と課題
  2. 1995年の設立から昨年12月のシンガポール閣僚会議まで、WTOは自由貿易体制の推進機関として着実に地盤を固めてきた。
    そして、シンガポール閣僚会議では、「貿易と投資」、「貿易と競争政策」、「政府調達」の3つの作業部会の設置やITA(情報技術協定)など具体的成果を導き出すことができ新しいスタートを切ることができた。閣僚会議以降は、合意事項のレビューや基本電気通信に関する協定の合意等、着実にビルト・イン・アジェンダを実行している。
    WTO発足後のこれまでの成果は、第1に、多角的システムの地域主義に対する優位性が明確になったことである。地域協定が重視され、多国間協定が軽視されるのではないかとの懸念もあったが、多角的システムはITAや基本電気通信の合意など加盟国すべてが享受できる形で具体的成果をあげている。
    第2に、紛争処理機能に対する信頼の高まりである。WTO発足当時、いくつかの国、特に米国は、WTO紛争処理は国家主権を侵害するのではないかとの懸念を持っていた。しかし、シンガポール閣僚会議では、WTOの紛争処理機能がシステムとして有効に機能していることが確認された。
    今後の課題は、WTO加盟国の拡大である。現在、加盟国数は131カ国、申請国は29カ国であるが、申請国の中には、中国、ロシア、サウジアラビア等の重要な国が含まれている。すでに加盟している資本経済移行国や途上国等にとってマラケシュ合意の遵守さえも難しいことに鑑み、こうした申請国のWTOへの参加を可能とするには、国内法の整備などに向けた技術的支援が必要であることを認識しなければならない。

  3. 今後の取り組み
  4. 今後、WTOが取り組んでいくべき課題は3つある。
    第1は、協定の実施状況等これまでの作業のレビューである。
    第2は、98年の多角的貿易体制50周年記念事業である。現在のところ、来年の第2回閣僚会議と併せて5月もしくは2月に開催する可能性が高い。閣僚会議では、
    1. WTO発足以来の活動の整理、
    2. WTOの機能強化(加盟国が増加するなか、どのように意見を集約し、システムを強化して行くか等)
    が重要なテーマになるであろう。
    第3は、2000年以降のニュー・ラウンド交渉の準備である。今世紀末、もしくは新世紀には現在行なわれている交渉を収斂させていくことが必要になるであろう。


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