経団連くりっぷ No.60 (1997年 7月24日)

第549回常任理事会/7月3日

政治改革の成果と課題


常任理事会では、先般、政治改革推進協議会(民間政治臨調)が取りまとめた政治改革に関する2つの提言、「新制度の検証と当面の緊急改革課題」、「構造改革を担う新しい政党と政治のあり方」について、同協議会政治改革検証委員会委員長である東京大学の佐々木毅教授より説明を聞いた。

  1. 佐々木教授説明要旨
    1. 新制度の検証
      1. 政治資金収支報告書等をみると、新しい政治資金制度の下で透明性は相当程度高まったと言える。政治資金総額も減少した。透明性に対する国民の関心の高まりとともに、政治資金制度改革は一定の成果を上げつつあると言ってよい。
        また、政党助成制度の導入などにより、政党中心の政治資金の流れが定着することになった。
        さらに、連座制の適用範囲の拡大は小選挙区制の導入と相まって選挙腐敗防止に効果があった。

      2. 今回の選挙制度改革で政治家および政党の行動や発想が一変することを期待するのには無理がある。選挙運動方法の見直し、地方選挙の見直し、国会の改革等を同時並行的に進めなければならない。
        他方、新しい制度が予定、期待している政党の姿と現実の政党の姿には乖離がある。このような中で、政党の実態に合わせて制度を変えるのではなく、現行の選挙制度をじっくり育てていく必要がある。

    2. 当面の課題
      1. 第1に、企業・団体寄付のあり方については、例えば、
        1. 現在暫定的に認められている、政治家個人の資金管理団体に対する企業・団体寄付、
        2. 国から補助金等を受けている法人に例外的に認められている寄付、
        をそれぞれどうするのかという問題がある。

        第2に、政治資金の透明性の確保については、例えば、

        1. 公開基準が引き下げられた結果、政治資金収支報告書が分析しきれないほど膨大になってしまった、
        2. 現状では報告書の複写等についても障害があり、高度情報化の中で公開体制自体が前近代的である、
        という問題がある。

        第3に、公的助成制度のあり方については、例えば、政党交付金の使途が現状のままで国民の納得が得られるか疑問である。各政党における政策の研究・立案費は非常に少ない。政党交付金に使途制限はないが、従来同様に使われるのであれば、多額の交付を行なうことの是非が議論になろう。
        また、国会各会派に交付されている立法事務費が必ずしも立法事務に充てられていないという問題がある。この立法事務費の運用について、政策担当秘書の活用と併せて考え方を整理する必要がある。

      2. 昨秋の衆議院議員選挙結果を分析すると、
        1. 小選挙区では激戦区がかなり多数あり、各政党の戦略次第で議席が移動する可能性が高いこと、
        2. 比例選挙が小選挙区選挙の結果を緩和する役割を果たすこと、
        がわかる。また、選挙を通じて政権が選択されるという意味を政党、政治家が十分理解しているとは言えないのが現状である。さらに、政権選択のための選挙という観点からは、投票率の急速な低下、いわば「選挙市場の空洞化」の進行も懸念される。

        このような中で衆議院の選挙制度については、小選挙区比例代表並立制という基本を維持しつつ、以下の改革を行なう必要がある。

        第1に、定数格差を是正する必要がある。その際、小選挙区定数を増やし比例定数を減らすことは止むを得ない。ただし、やみくもに比例定数を減らすことには賛成できない。

        第2に、小選挙区候補者を比例代表名簿の同一順位に登載し、小選挙区選挙における惜敗率で当落を決する制度を廃止すべきである。これは比例選挙の形骸化につながりかねない。

        第3に、投票方法については、投票時間の延長、平日投票の活用等を検討すべきである。

        第4に、当選人決定基準の再検討が必要である。現在、当選人となるためには、有効投票総数の6分の1以上の得票が必要とされているが、これでは投票率が低下しても当選が可能であり、候補者にとって投票率を高めようというインセンティブが働かない。これを有権者総数の6分の1とする方式に改め、得票数がそれに達しない場合は再選挙を行なうようにしてはどうか。
        なお、参議院の選挙制度については、比例代表制を廃止し、定数を削減することを提案している。

    3. 政党と政治のあり方
    4. 選挙が政権選択の機会であることを政党が十分認識する必要がある。また、選挙の結果構成される国会において十分な審議が行なわれておらず、現状では連立与党間協議等の形で実質的な政策決定が国会外で行なわれているという問題がある。
      最後に政党の活動について触れておきたい。第1は、日本の政党の活動量が非常に少なく、そのために有権者との関係が希薄になっているという点である。第2は、政党が取り組むべき課題を実行に移すにあたって、議員立法をどのように活用していくかという点である。特に行政改革に係る問題については、議員立法の活用が極めて重要である。
      今次政治改革では政党を中心にした政治の実現を目指したが、その結果、政党が多くの問題を抱え込む形となった。諸外国では政党法を有するところもあり、わが国としても検討の余地がある。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    政界再編の途上で多党分立という現状では、政党よりも、むしろ政治家個人の個性が発揮される環境整備こそが重要ではないか。新しい政治家を育成するという観点から、政治家個人を支援するシステムが必要ではないか。

    佐々木教授:
    それに関連して、候補者個人が政党・政党支部の選挙運動枠を利用して選挙運動を行なっているという問題がある。各政党は候補者の育成にほとんど意を用いていない。まず政党交付金を活用して有為な人材の発掘に地道に取り組むべきである。


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