経団連くりっぷ No.60 (1997年 7月24日)

資本市場委員会(委員長 片田哲也氏)、
金融制度委員会(委員長 樋口廣太郎氏)合同委員会/7月1日

金融システム改革について
大蔵省長野証券局長・山口銀行局長と懇談


経団連では、21世紀の高齢化社会における経済活力維持の観点から、橋本総理の「日本版ビッグバン」の着実な実現を働きかけている。そこで、6月13日に、証券取引審議会、金融制度調査会、保険審議会において取りまとめられた金融システム改革の具体策、スケジュールについて大蔵省の長野証券局長、山口銀行局長を招き、説明を聞くとともに、懇談した。
以下はその概要である。

  1. 長野証券局長説明概要
    1. 証券取引審議会報告書について
      1. 投資家・資金調達者の選択肢の拡大
        今回の証券市場改革では何より投資家・資金調達者の選択肢の拡大を主眼としている。個別株式オプション、有価証券関連の店頭デリバティブといった証券デリバティブの全面解禁、証券総合口座の導入を行なうとともに銀行等における投資信託、保険販売を解禁する。

      2. 仲介者サービスの質の向上および競争の促進
        純粋持株会社の活用により広範なサービスを提供すべく、速やかに手当てを行なう。証券会社は免許制から登録制へ移行する。また、業態別子会社の業務範囲に係る制限を撤廃するとともに、証券会社の専業義務を廃止し、業務の多様化、差別化を促進する。株式委託手数料については99年末には完全自由化を行なう。

      3. 利用しやすい市場の整備
        市場整備の一環として取引所集中義務の撤廃、店頭登録市場の流通面での改善を行なう。また、未上場・未登録株式の証券会社による扱いを解禁し、ベンチャー企業等の資金調達の円滑化を図る。

      4. 信頼できる公正透明な取引の枠組み・ルールの整備
        ディスクロージャーについては、連結中心へと転換を図るとともに、金融商品に時価評価を導入する方向で国際的動向を踏まえた検討が行なわれている。また、会計士監査の充実については公認会計士審査会から提言が出された。インサイダー取引等に関する罰則の強化は秋の臨時国会で法案提出予定であり、また、公正取引ルール等についても拡充を図る。

    2. 一層求められる株主重視の経営とディスクロージャー
    3. 今回の報告の枠組みが実現すればニューヨーク、ロンドンに劣らない環境整備が可能となる。しかし、日本版ビッグバンが真に成功するか否かは発行体、投資家、仲介業者、行政、取引所、自主規制機関等各々が報告書の理念に則り自己変革できるかどうかによる。企業においては、一層、株主を重視した経営やディスクロージャーが求められよう。
      また、証券市場改革が真に実りあるものとなるためには、経済構造改革、財政構造改革を並行して進める必要がある。

  2. 山口銀行局長説明概要
    1. 金融制度調査会答申について
      1. 商品・業務・組織形態の自由化・多様化
        金融制度改革では持株会社の活用に力点を置いている。持株会社の下における銀行の兄弟会社に一般事業会社を並べることは困難であろう。産業界には銀行による支配に対する強い懸念があり、十分な配慮が必要である。また、ABSに関する法整備や店頭デリバティブ、投資信託の銀行での扱い、銀行の社債発行の解禁、電子マネー・電子決済に係る環境整備を行なう。ノンバンクの資金調達を多様化するため出資法の規制を廃止する。

      2. 市場・取引のインフラおよびルールの整備
        東京市場をアジアにおける中心的な金融市場とするため、先物取引、短期金融市場の整備を行なう。また、消費者の立場から消費者保護に係る法整備を行なう。

      3. 金融システムの健全性の確保
        98年4月より早期是正措置を導入し、金融機関の経営の健全性を確保する。

    2. 保険審議会報告書について
    3. 保険市場における事業者間の適正な競争を促進するため、算定会が算出した保険料率の遵守義務を廃止する。2001年までに保険、証券、銀行の相互参入を実現する。

    4. さまざまな選択が求められる今後の銀行経営
    5. 今回の改革は網羅的であり、今後の銀行経営は各々の立場を踏まえた選択が要求されることとなろう。また、業態、ノンバンク、電子マネー・電子決済といったさまざまな方向への広がりを意識する必要がある。

  3. 懇談
  4. 経団連側:
    1. 金融システム改革を実現するためには、公的金融に関し、経団連提言の通り、財投改革推進3カ年計画の策定と財投改革監視委員会の設置が必要である。また、顧客資産の安全管理、利用者保護については法整備を急ぐとともに、利用者に自己責任原則を根付かせていく必要がある。
    2. 先般、議員立法によりストックオプション、自己株式の利益消却手続簡素化を迅速に実現することができた。これらの積極的な利用を働きかけるとともに、今後、株主重視の経営やコーポレートガバナンスのあり方について検討していく。
    3. 連結中心へのディスクロージャーの転換の実施に当たっては実務への十分な配慮が必要である。また、今後、会計基準の国際化を図っていく必要があるが、そのためには、商法の改正を働きかけていく必要がある。
    4. ビッグバンの実現には、有価証券取引税の撤廃、連結納税制度の導入といった税制の手当てや持株会社の設立に係る商法改正などが必要である。

    長野証券局長:
    公的金融機関の問題に関しては、われわれも進捗を期待しているが、同時に民間金融機関においても、魅力ある商品提供に向け、改革を進める必要がある。会計基準に関する商法上の問題については法務省と共同の研究会を設置して検討を進める。

    山口銀行局長:
    財投、政府系金融機関については、新しい時代に向け、大胆な見直しを行なっていきたい。投資家や預金者に対し自己責任を求める際には、同時にディスクロージャーの充実が大前提となろう。


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