経団連くりっぷ No.60 (1997年 7月24日)

首都機能移転推進委員会企画部会(部会長 水上萬里夫氏)/7月9日

首都機能移転のニュー・パラダイムについて説明を聴取


首都機能移転推進委員会(委員長:河野俊二氏)企画部会では、地方分権の視点を取り入れた首都機能移転論を提唱しているアーバン・プラネット環境計画の小栗幸夫代表取締役から、首都機能移転のニュー・パラダイムについて説明を聴取するとともに懇談した。
以下は小栗代表取締役の説明の概要である。

  1. 現在の新首都像の問題点
  2. 小栗幸夫氏
    1. 現在の議論の基礎となっている「国会等移転調査会報告」(95年12月)で想定されている新都市は、
      1. 最終的な新都市の規模(人口60万人、面積約9,000ha)は大きく、広大な用地確保と開発規制が必要であること、
      2. 新首都の維持・管理のため膨大なコストがかかり業務は停滞し、民間開発は立ち遅れること、
      などにより都市としての機能不足でセレモニーとしての国会等を開催するのみの場になってしまう。
      また、従来の首都機能移転策では、昨今の財政難のなか、建設費用が問題となる。大規模な建設により内需が拡大するという見方もあるが、建設事業を中心とした公共事業は乗数効果は低く、政府財政を一層悪化させるだろう。

    2. 筑波学園都市に対して過去30年で投下された国の予算は1.9兆円であり、人口は90年に10万人という計画に対し、94年で6万人にとどまっていることはひとつの教訓になりうる。都市の広さと低密性のため自動車なしの生活はできないこと、商業施設などが少ないこと等、依然として都市機能の問題を抱えている。また、キャンベラは新首都のモデルとして議論されることが多いが、首都の体裁が整うまでに60年以上かかり、未だに大規模な国費の投入が税金食いと批判されている。

  3. 首都機能移転「私案」
    1. 首都機能移転の政策的意義は、明治維新以来のわが国の中央主権、官主導体制を解体し、分権型社会へと変革することである。また、首都機能移転は予想される大規模な震災への対策としても重要である。
      しかし、新首都が機能せず、政策決定過程が中央集権型、規制型に行なわれる等、基本的欠陥を持ったこれまでの審議の方向に移転の効果は期待できない。従来の首都機能移転の考え方を超越した新たなパラダイムが必要になる。

    2. 私は、首都機能移転への代替案として全国の大都市や地域拠点都市の中心部にコンパクトな政府地区を整備し、複数の政府地区を全国的にネットワークする「全国政府地区ネットワーク」(以下NNGD-National Network of Government Districts)を提案する。これは、道州制、連邦制などの分権国家システムの考えと共通する考えである。
      NNGDの仕組みは、全国に10くらいの都道府県を統合した行政圏域を設定し、その中枢的な都市に圏域政府地区を置くとともに、それらを相互に調整し国単位で必要な施策を行なう1つの中央政府地区を置くというものである。(図参照)

      全国政府地区ネットワーク(NNGD)のイメージ

      1. 中央政府地区について
        中央政府地区は、全国からアクセスがよい地方の大都市に建設されるべきである。私はこの大都市として名古屋が最も適していると考える。具体的な候補地域は、名古屋城南の三の丸地区である。この地区は名古屋駅に近く地下鉄も整備され、優れた自然・歴史環境を有しており、文化施設、商業中心にも近い。
        省庁再編により移転する国家公務員等を現在の3分の2に削減し、用地はすべて国有地を使い、省庁ビルの半分は既存施設を使用すると建設費は約4,000億円で済むと試算される。また、国家公務員等を現在の2分の1にすると約2,000億円になる。すべてを既存施設でまかなえば建設費はゼロである。いわば、「すぐにでもできる首都機能移転」である。
        また、「人と自然の共生」をめざした21世紀万国博覧会を名古屋での政府地区と連動させることにより、名古屋と万博会場の瀬戸は「都市と自然の共生」のモデルとなりうる。

      2. 圏域政府地区について
        圏域政府地区は各圏域の政府センターとして機能する地区であり、中央政府地区と同様十分な都市サービスが得られ、全国とのアクセスがよい各圏域の主要都市の中心部が建設の候補地となる(札幌、仙台、広島、福岡など)。

  4. 求められる国民レベルの議論
  5. これまでの首都機能移転の議論は国会議員、中央省庁官僚、官僚OBなどの狭いサークルで行なわれ、国民的議論が不十分であった。そこで私は、例えばインターネットを使って代替案を示し、マスメディアと連動して一般国民から国会議員に至るあらゆる層の国民が首都機能移転に関する意見交換を行なう場「国民フォーラム」をつくるなどして、官主導の議論を脱却し、国民主導の議論を行なうことが重要だと考える。


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