経団連くりっぷ No.60 (1997年 7月24日)

日本トルコ経済委員会総会(委員長 関 和平氏)/7月10日

混迷するトルコの政情


日本トルコ経済委員会は、7月10日、1997年度定時総会を開催し、1996年度事業報告・収支決算および1997年度事業計画・収支予算を原案通り可決した。当日は審議に先立ち、アジア経済研究所の間 寧(ハザマ ヤスシ)研究員を招き、トルコの国内政治情勢と経済への影響について説明を聞いた。以下はその概要である。

  1. 福祉党首班内閣の崩壊
  2. 前内閣である福祉党・正道党連立内閣に対しては、エルバカン首相(福祉党党首)がイスラム色を強めたことにより正道党からの離党者が続出、また軍部も警戒心を強めた。
    これに対し、チルレル副首相(正道党党首)は、自らの不正疑惑を覆い隠すために連立離脱ができず、正道党の崩壊を防ぐことができなかった。その結果、与党は過半数を割り、エルバカン首相は、デミレル大統領に辞表を提出するに至った。

  3. エルバカン内閣下の経済政策
  4. エルバカン前首相の歳入増加策は、実質的に借り入れを主とする政策に過ぎなかった。一方、基本的に選挙がらみのバラまき政策だったこともあり、結果的に歳出増を招き、財政赤字の削減という目論見は失敗に終わった。また96年、97年の経済成長率は鈍化しつつあり、財政赤字も急増、インフレ率も90%まで上昇している。これは94年の経済危機に匹敵する危機的状況である。さらに96年1月、EUとの関税同盟が発足したことと、トルコリラ高による輸入急増から、貿易赤字・経常赤字が拡大している。ただし、グルジア・アゼルバイジャン等の旧ソ連諸国との貿易が盛んであり、経済に暗さがない。

  5. ユルマズ政権の性格
  6. 6月30日に誕生したユルマズ新内閣は、ユルマズ党首率いる祖国党、エジェビット党首率いる民主左派党、そして正道党を離脱した国会議員により構成される民主トルコ党からなる連立内閣である。連立3党は、国会で、かろうじて過半数を超えているに過ぎず、極めて不安定である。
    同内閣に期待されていることは、選挙人名簿の速やかな更新と、前内閣が進めた官僚のイスラム化を排除し、世俗主義体制を再構築することである。

  7. 次期総選挙の展望
  8. 95年の総選挙で得票率21.8%と躍進した福祉党だが、基礎票は10%程度に過ぎず、上積み分は体制批判票と推測される。実際に政権を担当したことにより、政党としての限界が露呈したため、基礎票以上の得票は期待できない。労組をはじめとする市民社会組織は、軍部とともに世俗主義を要求しており、イスラム色の薄い新内閣を支持している。
    これまでトルコでは、正道党、祖国党など右派世俗政党が4割以上の得票率を有していた。イスラム政党の失敗に対する反省からも、右派政党が大合同できるか否かが、今後のトルコの内政安定のポイントと思われる。


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