日本ベトナム経済委員会1997年度総会(委員長 西尾 哲氏)/7月29日
社会人文科学国家センターの96年1月の報告書は、マルクスの理論を発展の方向づけとして扱っており、発展の過程を「農業文明、工業文明、ポスト工業文明」の3つに区分している。現代社会を「資本主義から共産主義への過渡期」と捉え、ポスト工業文明を共産主義と認識し、資本主義は発展の前提とされる。また、ベトナムは、共産党が指導する人民の国家であり、国が資本主義的発展を促進し、軍人や官僚が資本主義的発展の推進力になったと述べ、これを「国家資本主義」と定義している。
このような議論の背景には、大会準備の作業として、共産党の枠組みのなかでしか議論できず、社会主義の目標を放棄するわけにはいかないという複雑な事情があった。社会主義を志向しながら、ベトナム経済の発展を求めようとして、ポスト工業文明と共産主義を同一視したのである。
第8回共産党大会と同じ時期に、チャン・スアン・チュオン氏が『ベトナムにおける社会主義志向』を出版し、資本主義的な発展に対する批判として保守派の理論を展開している。第8回共産党大会の「政治報告」は、現代社会を「資本主義から社会主義への過渡期」と表現した。このような考え方は、96年4月の第2次草案で登場したものであり、ベトナムにおける当面の資本主義的な経済発展の合理化を狙っている。保守派と改革派との間で綱引きがあったものと考えられる。
その意味で第8回党大会は、改革派にとっては資本主義的な発展への橋頭堡であり、また保守派にとっては資本主義的な発展、すなわち合弁企業の活動に対して一定の枠をはめるものと理解された。
現在、ベトナムでは国家資本主義の中身をどう見るかが争点になっている。これはドイモイ10年のベトナムをどう考えるかとも関連する。ベトナム共産党は、ベトナム経済のあり方について、「社会主義を志向する、国家の管理を伴った、市場メカニズムによって運営される、多セクターの商品経済」と述べている。社会主義市場経済は、共産党のコンセンサスであるが、社会主義に力点を置く場合と市場経済に力点を置く場合とで相当の違いが出てくる。資本主義か社会主義かは根本問題だが、ベトナムを総体として見れば割り切れておらず、微妙な綱引きが行なわれているのが現状である。しかし、ベトナムの文化的伝統を考えると、このような曖昧さは特異なことではない。
東南アジアの他の国では、公式宗教と民間信仰は区別されており、イスラム教や仏教の施設として認められないと、文化財に指定されない。しかし、ベトナムの場合、「宗教の博物館」と言われるように、いろいろな神が併存している。このように考えると、資本主義と社会主義の併存もベトナム人にとっては、それほど違和感のあることではないのかも知れない。
指導部の若返りによって、政治体制が今後どうなるかについては、
いずれにしても、いまベトナムでは、国家機関や経済組織の幹部の構成は急速に若返りが進んでいる。戦争の時代ではなく、経済の時代に育ってきた人がベトナムの国家運営を担うようになれば、ベトナムの政治も変わるだろう。