経団連くりっぷ No.61 (1997年 8月28日)

国際協力委員会(委員長 熊谷直彦氏)/7月29日

行財政改革におけるODAの現状と展望


国際協力委員会では、7月29日に会合を開催し、政策部会、国際貢献・人材派遣構想部会など6部会のもとで、(1)意見書「政府開発援助(ODA)の改革に関するわれわれの考え」および「ODA予算に関する緊急要望」のフォローアップならびに民間経済協力の推進に係る問題についての検討、(2)世界銀行グループとの連携強化、(3)途上国への民間人材派遣の推進、(4)国際文化交流活動のあり方の検討を柱として本年度の活動を進めることを決めた。当日はこれに先立ち、畠中外務省経済協力局長より、行財政改革におけるODAの現状と展望について説明を聞いた。以下は畠中局長との懇談概要である。

  1. 畠中局長説明要旨
    1. 財政構造改革とODA
      1. 財政構造改革の流れにおいて、政府開発援助(ODA)の一般会計予算は、平成10年度から3年間の集中改革期間中、「各年度その水準の引き下げを図り、特に10年度予算については前年度比10%マイナスの額を上回らない」ことが6月3日、閣議決定された。外交当局としては、予想以上の削減であると捉えている。
        大幅削減に至る背景として、以下の2点が指摘できる。第1に、予算見直しのプロセスにおいて対象となったODA実績が、急激な円高を背景に世界的に抜きんでていた1995年度のものであったことである。1995年度実績をもとにわが国がこれほど負担する必要はないとの判断が行なわれた。
        第2には、日本の援助理念の問題がある。これまで国内においては、ODAを通じた国益の追求という側面に比べ、人道的配慮、国際貢献等の面を強調してきた傾向がある。そのため、自国の予算が厳しいのであれば、少し相手国に我慢してもらって当然という声が大きくなった。
        しかし、1996年のわが国ODA実績は、円安も手伝って94億3,700万ドルと、2位の米国(90億5,800万ドル)とは僅差にすぎない。また、わが国ODAのGNP比では、1996年には0.21%と下落し、初めて中期目標を設定した78年の0.23%をも下回るに至った。これは、OECDの開発援助委員会メンバー21カ国中、19位に位置し、イタリアと同じ水準である。
        今後は、予算削減に加えて一層の円安傾向も予想され、日本が世界に貢献しているとの姿勢をアピールできなくなると懸念している。

      2. わが国ODAの事業予算の財源は、一般会計予算、円借款の原資となる財政投融資資金、国際開発金融機関(世界銀行グループ、地域開発銀行等)に対する出資国債、各省の特別会計予算等を加えたものである。
        来年度のODA一般会計予算が、仮に前年度比一律10%削減されるとすると、一般会計予算だけで賄っている技術協力、無償資金協力への影響は甚大である。特に国際協力事業団(JICA)の行なう技術協力は、大半を人件費が占めているため、10%の予算を削減することにより、新規の専門家派遣、青年協力隊の派遣はまったく行なうことができない。また、研修生の受け入れも半減せざるを得ない。無償資金協力でみると、中東向け無償分、もしくは医療・教育分野での無償分はカットされることになる。また、義務的経費ではない国連諸機関への拠出金(国連難民高等弁務官:UNHCR等)は40%〜50%の削減は避けられない。
        他方、円借款は途上国からの回収金が近年増加しており仮に一般会計からの資金が減少しても全体の円借款の事業規模は確保できる。また、国際開発金融機関への拠出金は、削減しても比較的影響は少ないと考えている。
        今後の課題は、削減されたODA予算の質的向上を図り、いかに国際社会への期待に応えていくかである。そのためには、円借款、無償資金協力、技術協力、国際開発金融機関への拠出金をそれぞれ一律10%削減という方法ではなく、メリハリの効いた予算配分を行なうべきである。また、質の向上のためODA事業周辺の予算を要求していきたい。

    2. 21世紀に向けたODA改革懇談会
    3. かつてなく厳しい財政事情の下、ODAの質的向上が大きな課題となっていることを受け、外務大臣の下「21世紀に向けてのODA改革懇談会」(座長:河合三良国際開発センター会長)が本年4月に設置された。6月27日に同懇談会は中間報告をとりまとめたが、その内容は
      1. 整合性と一体性のある援助政策/国別計画の策定、
      2. 現場主義の強化と開発途上国のニーズに即した援助、
      3. 実施体制の見直し(実施機関の組織等)、
      4. 日本の特徴と経験を生かした援助、
      5. 南南協力支援のための体制作り、
      6. 調査・監理・評価・フォローアップの強化、
      7. 情報公開と広報活動、開発教育、
      8. 国民参加、
      9. 人材育成、
      の9つの柱から構成される。
      外務省では、来年度のODA概算要求にこれら視点を取り入れていきたいと考えている。

  2. 意見交換
  3. 河合国際開発センター会長:
    改革懇談会の座長として、この中間報告を「線」でも「面」でもない「点」として位置づけている。すなわち、今回の中間報告は、時間的な制約もあり予算に関連する点のみ言及したにすぎない。懇談会としては、役に立つ経済協力とは何か、質的向上とはどういうことかについて十分な議論を踏まえて最終報告を取りまとめていきたいと考えている。その際、
    1. ODA事業が本来の目的を達成しているのか、
    2. ODA事業のやり方が効率的か、
    3. ODA事業が統合性のあるものとなっているかどうか、
    の3つの視点からODAを見直していく必要があると考えている。

    奈良三菱総合研究所会長:
    予算規模1兆3,000億円にのぼるODAに対する国民の理解が薄い。国民に対するODAのPR活動が必要である。
    懇談会の中間報告でも、国際機関との対話、人材養成等が指摘されているが、国連等国際機関の枢要ポストに日本人が極めて少ないと側聞する。日本が果たしている資金的貢献に応じた人的貢献を行なうべきである。そのためには、民間人を含めた日本人をこれら機関の要職につけるよう努力すべきである。


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