経団連くりっぷ No.61 (1997年 8月28日)

創造的人材育成協議会企画部会(部会長 森本昌義氏)/7月23日

時代に則した人材育成の推進を


創造的人材育成協議会企画部会では、21世紀の経済社会を担う創造的な人材育成のための環境作りに向けた検討の一環として、通産省の松島茂企画室長より、通産省としての人材育成への取り組み等について説明を聞いた。
以下はその概要である。

  1. 「世界の中の日本を考える懇談会」での議論
  2. 12年前、通産省では、故村上泰亮氏を座長とし、世界各国の有識者26名を委員とするラウンドテーブル「世界の中の日本を考える懇談会」を立ち上げ、今後の日本のあり方、日本が行なうべき貢献等について議論した。
    同懇談会では、文化・経営の両面において、日本の「特殊性」と「普遍性」を対立軸として議論がなされた。特に、伊丹敬之・猪木武徳両氏は、人的資源の尊重に、日本経済の普遍性のよさがあり、このため企業内に技術が蓄積され、戦後の経済成長を支えたと主張された。同懇談会は、通産省が人的資源の重要性を取り上げた初めての試みであり、今日、通産省が人的資源を検討するに至った原点であると思う。

  3. 産業空洞化への懸念
  4. 昭和50年代、石油危機をきっかけに、経済構造の変化が始まっていたが、認識され始めたのは、平成に入ってからで、産業の空洞化への懸念が生じた。
    企業の開業率と廃業率では、戦後から昭和までは開業率が上回っていたが、平成に入ると、これが逆転した。老年期を迎える企業が増え、新たに生まれる企業が減ることは、経済全体が衰退する前兆でもある。
    開業率の低下は、日本経済の比較優位が比較劣位に変わったからである。今後は、既存の産業を一工夫するだけでなく、今までにない新たな分野を切り開かなければ、成長していくことは難しい。

  5. 産業政策の変化
  6. 産業政策も経済の実態に対応して、変わらなければならない。高度成長期には、現局毎に、業種政策を考えればよかった。しかし、今日は育成すべきターゲット・分野が色濃く出てこない。ニュービジネス・ベンチャーであるならば、政策も変わってくる。そこで、日本経済の転換期では、別の切り口からの取り組み、いわば新しい企業を創造し、成長させ得る人材作りに注目した政策への取り組みが求められる。これが、通産省が人的資源の問題に取り組むこととなった背景である。
    通産省は、現在、自前の人材育成策については、検討中である。それゆえ、当面は、文部省や労働省等で検討されている人材育成策に対し、経済活性化、新しい産業政策の観点から、意見を述べることとしている。

  7. 「経済構造の変革と創造のための行動計画」と教育改革プログラムの作成
  8. 「同行動計画」は、通産省が原案を作成し、5月に閣議決定された。資金、技術、人材等について、横断的な改革・取り組みを進めることを明記し、新規産業の創出を担う人材の育成および人材がその持てる能力を最大限発揮できるための環境整備等について、触れている。
    また、文部省の教育改革プログラム(1月)の作成にあたり、通産省の意見を申し述べ、その結果、社会の要請の変化への機敏な対応や、教育改革の輪を広げるための経済界等との協議の場の設定等の項目が盛り込まれ、5月14日には、第1回の教育改革フォーラムが開催された。

  9. 通産省の具体的な取り組み
    1. ジョブインターンの導入
    2. 日本では、産業界と、学校との距離は遠い。そのため、学生が在学中に就業体験を行なうジョブインターンの導入を訴えている。アメリカでは、2〜6カ月かけて、ジョブインターンが行なわれ、大学と社会との接点が設けられているが、日本にはこうした接点がほとんどない。技術系は、卒業までに履修すべき分野が増えており、企業に入ってから、1つひとつやり直していたのでは、間に合わなくなっている。
      東海地域で、実験的にジョブインターンを試みるために、準備作業を開始した。労災等の解決すべき問題があるが、関係省庁と連携して、平成10年度から、本格的な活動を行なう予定である。

    3. 工学教育の認証制度
    4. 各大学の工学部で行なわれている具体的な教育内容の水準が、よくわからない。そこで、出口での質をチェックし、工学教育の一定水準を確保するために、認証制度の導入(日本版ABET−アクレディテエーション−)を、日本工学会、日本工学教育協会とともに、検討している。

    5. 文部省への働きかけ
    6. 文部省に対しては、小・中学校段階から社会との接点を作るために、社会人講師や、企業の教員研修受け入れ等のデータベース作りを行なう等、相互交流の推進を働きかけている。また、教育現場に、ネットワークインフラを整備し、小さな段階からコンピューターに慣れ親しむ試みも行なっている。

    7. 柔軟な労働環境の整備
    8. 派遣業法の改正等の規制緩和により、派遣可能な職業の幅が広がっている。また、民営職業紹介事業に関しても、公的機関以外(プライベートファンクション)でも取り扱い可能な幅が広がっている。労働省に対しては、裁量労働制やフレックスタイム制など、柔軟な労働が行なえる環境整備に向けた議論を促している。
      通産省としては、今後とも、産業界の現場とのすり合せを踏まえて、時代に則した人材育成への取り組みを探りたい。


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